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東南アジア地域研究専攻
第7回 吉田香世子:東南アジア地域論講座

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「モン族の市場にて」


2002年2月、ラオスはヴィエンチャンでの語学研修がもうすぐ終わろうかという頃、古都ルアンパパーンを訪れる機会を得ました。本来の目的とは別に、ここにはどうしても訪れたい場所、「モン族の市場」がありました。ラオスにあってモン族は、内戦中に右派左派双方に分かれて戦い、社会主義政権成立後には多くが難民となって逃れた歴史をもちます。しかしこの広場にいるのは観光客相手に手工芸品を売り扱う女性たち、なかでも目立つのはまだあどけなさを残す少女たちの姿です。伝統的な衣装に身を包み、身ぶり手振りで客を引きとめようとする年配者とは対照的に、低地ラオ族のスカートを穿きこなし、片言ながら外国語も解する彼女たち。2年前、初めてここを訪れたとき私は1週間ほど通いつめ、ともに遊んで過ごしました。彼女たちが覚えているはずなどないのだけれど、元気な姿を見られればそれで十分でした。さて、実際に広場を訪れてみると、店の数も品物の種類もずい分と様変わりしています。刺繍が主力商品であるはずのモン族の店にはTシャツ、絵葉書などのラオス土産が並び、訊けばラオやタイ・ルー、黒タイなどモン族以外の人々も商売を行っているようです。やがて店先でトランプ遊びに興じる少女たちを見つけると、なかには懐かしい顔もあります。そっと近づき、「一緒にやってもいい?」。すると彼女たちは表情一つ変えず、ごく自然にトランプを私に配り、そのままゲームを続けたのです。異邦人である私にどこの誰とも尋ねようとはせず、格別な関心を示そうともせず。かつて日本について熱心に訊いてきた少女は、同じ国の名に何の反応も見せません。おそらく彼女たちにとって、今やこうした異文化との接触は日常の一部となっているのでしょう。これは果たして私は彼女たちに「受け入れられた」ことになるのでしょうか?彼女たちの抵抗感のなさに抵抗感を覚えた自分を、我ながら不思議に思いつつ市場を後にしたのでした。
From: 吉田香世子 (東南アジア地域論講座)