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「連環」とは?
「連環地域」という言葉は、聞き慣れない用語です。ふつう「レンカン」と言えば「連関」と書く。関連、連関、相関といった言葉は、二つ以上の物事が関係し合っている様子を表しています。それに対して、「連環」はそのようなつながりをもたらす「環」を指すものです。
し
たがって、アジア・アフリカ地域研究研究科における「連環地域」とは、アジアとアフリカをつなぐ「環」の地域を意味しています。具体的には、南アジア、西
アジア、中東・北アフリカですが、これらを「面」としてとらえるだけではなく、研究領域としては「ヒンドゥー世界論」「イスラーム世界論」として設定して
います。ということは、東南アジアやアフリカにも関わる形で広がっているヒンドゥー、イスラームを特定地域に偏らずに見ていこうという志向性があるので
す。
理論的には、ヨーロッパやアメリカに移民したヒンドゥー、イスラームのコミュニティーの問題も射程に入ってきます。そのような意味で、広くアジア、アフリカの諸地域をつなぐ「環」なのです。
実は、「連環」の語は、このような環となっている地域を指すだけではありません。研究における「連環」的な方法論が含意されているからです。
そ
れは、一つには、物事を要素還元主義的に見ないで、意味のつながりを相関的に、総合的にとらえるということです。また、地域の諸現象の有機的な連続性を把
握する手法です。連環は大きな環でもありえますが、鎖のように小さな環が数多くつながっているイメージでとらえることもできます。地域の具体的な現象は、
実際には孤立したものではなく、さまざまな次元で他の諸現象と結びついています。そのつながった様を、簡単に切断することなく、連鎖として解析し、分析し
ていく態度を、「連環的な研究を行う」といいます。
具体的な手法として言えば、たとえば、「上流連鎖」「下流連鎖」というものがあります。これは、ある一つの物事や事象をとらえた場合に、その事象にはかならず「上流」と「下流」へのつながりがあるので、それを視野に入れて分析することを意味しています。
た
とえば、インドのサリーを取り上げた場合、サリーは衣類の一つです。サリーだけを主題として取り上げたのでは、衣類の研究の一環としてはともかく、南アジ
アをとらえるための地域研究としては深みのある研究はできないように見えます。しかし、サリーにはその作り手があるだけではなく、原料があり、原料の生産
地、生産者があり、流通過程があります。それらが社会の中でどのような位置と意味を持っているのかがわかれば、社会全体の様相も明らかになってきます。こ
の部分はサリーの「上流」にあたりますが、他方「下流」は、その消費、実際に用いる人々の生活とその中でのサリーの意義、古くなったサリーの処分法といっ
たもので、ここには固有の文化の相がはっきりと現れてきます。このように、上流連鎖、下流連鎖に着目することによって、一つ一つの事象が、より大きな社会
や文化のあり方を見るための起点となりうるのです。
あるいは、「意味の階
梯」というものがあります。その地域に特有のある言葉や概念を取り上げる場合に、それは必ず「意味の階梯」のどこかに位置しています。その階梯は、さまざ
まなレベルの類概念のつながりとしてみれば、分析的なものですし、意味の分節化がその文化に固有の型によって行われていることに着目すれば、実体的なもの
として把握されます。いずれにしても、連続的な意味の階梯を前提として見ることによって、広い眺望が確立されます。
中
東地域研究の事例で言えば「3項連環」があげられます。これは、「都市」「農村」「遊牧」の3項が連環をなしてイスラーム文明を形成しているとの概念で
す。ヨーロッパや中国では、歴史的に見て、定住・農耕を基礎とする文明に対して、外からの脅威として遊牧民が存在しました。そして、文明地帯の中では、都
市と農村は対比され、対抗的なものとして存在しました。二重の二項対立の図式です。これに対して、イスラームの場合、都市・農村・遊牧が、対立的ではな
く、連環的に統合されたところに、文明的な特徴があります。そのことは、アラビア半島でのイスラーム誕生の経緯によって、部分的には説明されます。つま
り、商業都市のマッカ、農業を基盤とするマディーナ、両者を取り巻く遊牧文化というものを基礎にイスラームが誕生したゆえに、この3項連環が可能となった
のです。
あるいは、アラビア語の「意味連鎖」というものがあります。アラ
ビア語の単語は3つの子音を根幹として、種々の派生語が作られる構造をしていますが、この3子音を「語根」と呼びます。語の「根」から「枝・葉」が派生す
るのですが、このように一つの語根から多数の意味が連鎖的に生まれる構造が、アラビア語的な発想を相当程度に規定しています。
もちろん、このようなことからアラブ世界の文化や社会現象を説明するといった単純なことはできませんが、これは認識上の分節化を規定する重要な要素ですから、この意味連鎖を理解することは、語学的にも思想研究上も非常に重要です。
以
上にいくつか、連環的な研究手法について、具体的な例をあげましたが、もう一つ大事な点は「地域間比較」ということです。地域間をつなぐ「連環」という以
上、地域を孤立したものと見ないで連続体としてとらえる視点は重要ですが、それだけではなく、常に複数の地域を見る目で自分の対象地域に接することが必要
です。
そのための方法論として、「地域の三角測量」が強調されます。これ
は、自分の属する地域、自分が対象とする地域、もう一つの地域(複数可)の三つを持って、三角測量(三点測量)を行うという方法論です。二点間の測量で
は、距離もわからないし、位置も正確に定めることができないことは言うまでもありません。一点だけでは、話にもならないでしょう。言うまでもありません
が、「自分の属する地域」といっても、日本人が日本に属しているというだけでは、日本を知っていることにはなりません。三角測量には、自己を相対化し、対
象化する作業も含まれます。地域間比較のためにもっとも重要な手法は、それを前提とした多地域研究者の相互討論です。連環地域論講座は、その点で、一講座
の中に複数地域が含まれている利点を持っています。
毎週、このような手法での討論をすることができるのは、地域研究にとっては好適な環境です。具体的には、「連環地域論ゼミ」ですが、毎週の発表と討論は、常によい意味での緊張感と刺激に溢れています。
(小杉 泰)
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