アジア・アフリカにおけるマイノリティの諸相(2009)

概要

アジア・アフリカの多くの国は、20世紀後半に旧宗主国から独立して誕生した新興国である。これらの国々では、国民国家建設の進展のなかで、国内の多様な人々を統合する必要に迫られていた。その過程で、生存や共同体の存続が脅かされ、国家の中で周縁的な立場に置かれることとなった人々もいた。また、国家によってその政治的重要性が認知され、カテゴライズされて国民化の道を歩む人々の存在もある。このように、本共同研究では、制度や言説によって生み出される多様なマイノリティの諸相を議論の対象とする。それは、さまざまな差異化や同質化の過程で創り出され、時代状況に大きく左右されるものである。具体的には、宗主国からの独立前夜におけるナショナリズムの高揚や政治変動のなかで周縁化されていく人びとの動向や、国民国家形成初期における少数者の様々な葛藤や政治的選択、また、近年さかんに行われつつあるマイノリティの権利運動や文化表象などを取り扱う。国家の成立から50年前後の大きな時間軸のなかで、アジア・アフリカのマイノリティを巡る状況の比較考察を試みる。その際、マイノリティという言葉で表象されてきた人びとの政治行動に着目しながらも、かれらの多様な葛藤や交渉について日常への視座から考えたい。2009年8月にはカメルーンの北部と南部に分かれて、先住民問題に関する予備的な広域調査を行った。国民国家やその他の外部アクターとのかかわりの中から人びとの日常に関心を寄せる堀江、首藤、下條はMBOSCUDAというNGOが活動拠点にしている北部地域へ、マレーシアの熱帯雨林における自然保護区と地元住民との関係を対象に研究している佐久間は、カメルーン南部の熱帯雨林地帯に設置されているジャー自然保護区へ、それぞれ訪問した。また、首都ヤウンデでは、ヤウンデ第一大学にて研究報告会を開催して現地の若手研究者や学生と議論を行った。

研究報告会

研究報告会: 2009年8月29日(University of YaoundeⅠ)
 ⇒Program (English)

広域調査

研究報告書

目次

<はじめに>
1. ベトナム・サイゴン政権の山地民統治の転換
下條尚志
2. 衰退に追い込まれた集団クリオ
首藤あずさ
3. 「ラフ族文化」とは何か?民族文化の提示をめぐって
堀江未央
4. NGO言説を超えて
佐久間香子
<カメルーン滞在コラム>

メンバー

氏名調査地研究テーマ
堀江未央
(研究代表)
中国
(雲南省)
中国雲南省瀾滄ラフ族自治県におけるラフ族表象と社会変容
佐久間香子マレーシア
(サラワク)
ブラワン人社会における生態資源利用をめぐる環境史
下條尚志ベトナム
(テイグエン地域)
ベトナム中部高原山地民社会における土地所有の歴史
首藤あずさシエラレオネ
(フリータウン)
英領西アフリカ植民地エリートの葛藤とその影響;シエラレオネのクリオを事例に