Center for Islamic Area Studies at Kyoto University (KIAS)
 
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イスラーム地域研究




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研究会の記録

ユニット3第1回研究会(2007年9月21日 於早稲田大学)

 京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)ユニット3(急進派)の第1回研究会が2007年9月21日に早稲田大学で行なわれた。本研究会では、まず、ユニット3の活動として、メンバーが自由に利用でき、急進派国際組織に関するデータを共有できるような備忘録的なウェブページをWikiで製作するという提案がなされ、それについて議論した。このwikiページは非公式版として、メンバー制限を行うことで書き込み等を管理するものとし、いずれKIASの公式ウェブページと連動させ、非公式版のなかのデータを徐々に移行していく方針となった。
 次に国際ワークショップ等、今後のユニット3の活動予定に関して話し合った。

報告者:(保坂修司・近畿大学)



ユニット1研究会(2007年7月18日 於京都大学)
題目:"US Policy and the Shiites of the Gulf"
発表者:Juan Cole(ミシガン大学)


 京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)ユニット1(国際関係)の研究会が2007年7月18日に京都大学で行なわれた。同研究会は、インドからイランにわたるシーア派世界の歴史研究で有名なホアン・コール氏(ミシガン大学)を招聘し、2003年イラク戦争後のイラクと湾岸地域におけるシーア派の動向を分析していただいた。
 コール氏のもともとの専門は、北インドのアワド朝の文書研究、同朝からイラクのアタバート(ナジャフ、カルバラー、カーズィミーヤ、サーマッラーのシーア派4聖地)への資金流通をはじめとするウラマーのネットワークにかんする歴史研究である。カリフォルニア大学ロサンゼルス校でニッキー・ケディー女史に師事したことからも分かるように(議論の方向性にかんしては女史とは若干異なるという印象を受けるが)、イランやシーア派についても多数の論考を残している。また、宗教学も修めていることから、イスラームにかんしてはもちろんのこと、日本仏教についても造詣が深い。また、同氏は北米中東学会の前会長や、International Journal of Middle East Studiesの編集委員を5年間務めるなど、国際的にも名高い。
 そんな彼を歴史研究のサークルを超えて有名にしたのは、2003年イラク戦争以降に彼が始めたブログであろう。単なるブログではない。それは、イラクにかんする膨大な報道を選別し、分析を加える極めて学術的なデータベースである(コール氏のブログにかんしては、Juan Cole, Informed Comment(
http://www.juancole.com/)を参照のこと)。それゆえに、毎日更新される彼のホーム・ページは多くの研究論文や書籍で引用されるほどになり、自身は名実ともにイラク政治の専門家になったのである。
 以上のような経緯で、歴史研究者がイラクと湾岸の現代政治を分析することになった。本報告の課題は、イラク戦争後のイラクにおけるシーア派の台頭が、湾岸諸国にどのようなインパクトを与えたかを明らかにすることであった。
 彼が着目するのは、イラクにおけるシーア派宗教界、なかでも最高権威のアリー・スィースターニーの役割である。スィースターニーは米軍の占領に一貫して反対し、イラク国民の主権を認めて民主的な選挙の実施を呼びかけた。コール氏によると、このようなスィースターニーの姿勢は、イラク国内においてシーア派宗教界の支持を強固にしただけではなく(2003年イラク戦争後のイラク国内におけるスィースターニーの政治的役割とその推移に関しては、拙稿「戦後イラクの政治変動とシーア派最高権威の国民統合論:スィースターニーのファトワーから」『イスラーム世界研究』(1/2)を参照)、周辺湾岸諸国におけるシーア派の運動を活性化させた。
 シーア派が3分の2を占めるバハレーンにおいては、アリー・サルマーンを中心とするシーア派の政治的権利の拡大を要求する動きや、米国のイラク占領を批判するデモなどが頻発した。サウディアラビアでは、東部の産油地域に集住するシーア派の政治参加を求める動きが活発になり、それが2005年3月の地方評議会の形成とその選挙実施に結実した。
 コール氏の議論が興味深いのは、スィースターニーによるシーア派の政治動員というトランスナショナルな影響が、湾岸各国の国内レベルにおいては、ナショナルなレベルでの政治動員に帰結しているという分析であり、イランよりもイラクのほうが湾岸諸国のシーア派に対して大きな影響力を持っているという指摘であった。
 報告後は活発な質疑応答がなされ、激動のイラクと湾岸にかんする非常に興味深い研究会となった。

報告者:(山尾大・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)




KIASユニット4 SIASグループ3 研究会(2007年6月23日 於京都大学)




題目:インド世界とイスラーム─聖者チャイタニヤの伝記文学から
発表者:外川昌彦氏(広島大学大学院国際協力研究科)


 外川昌彦氏による発表は、「ヒンドゥー教」概念の成立に関するものであった。本発表では特に、クリシュナ・バクティ運動の推進者であったチャイタニヤ(チョイトンノ)の伝記文学をもとに、「土着の宗教」としてのヒンドゥーが、イスラームとの関わりの中で自覚されていった様子が明らかにされた。
 外川氏はまず始めに、イスラームのスーフィズムがバクティ運動に影響を与えていたことに言及し、聖者信仰を通してシンクレティズム論を考える重要性について述べた。続いて、現代インド世界を特徴付けるコミュナリズムが、植民地時代よりも古い起源を持つ現象であることを示唆したベイリーの学説を紹介した。そしてこれらの議論をもとに、外川氏は概念としての「ヒンドゥーイズム」が西洋キリスト教世界との接触によって生み出されたとする従来の学説に疑問を呈し、15~16世紀のベンガルにおけるヒンドゥー教徒とムスリムとの関係性の中に、その萌芽がすでに観察される事実を指摘した。
 本発表はこれらの問題群の中でも、最後に提起された中世ベンガルの伝記文学における「ヒンドゥー」の用法と意味に関する考察を中心に進められた。研究にあたって分析対象とされた資料は2点ある。1つはチャイタニヤの没後10数年を経てブリンダボン・ダスによって書かれた『チョイトンノ・バゴボト』、もう1つはその70年後にクリシュノダス・コビラージによってまとめられた『チョイトンノ・チョリタムリト』である。資料の特徴としては、前者がチャイタニヤの日常や交友の記述を中心としており、後者では事跡の記録に加えて真理に関する議論も見られる点が挙げられる。
 資料の比較では、中世ベンガルの人々が宗教としての「ヒンドゥー」という概念を共有していたかどうかが詳細に検討された。先に成立した行伝では宗教としてのヒンドゥーの用法が明確には見られないのに対し、後で書かれた伝記にはそれが顕著に現れてくる。そして、それらの背景では常にイスラームに対抗するヒンドゥーという、宗教的な緊張関係が存在していると結論付けられた。
 質疑応答ではまず、後に書かれた資料の方により哲学的な議論が展開されている理由として、当時その勢力を拡大しつつあったムガル帝国の影響が無視できないとするコメントがあった。また、宗教間対立がチャイタニヤの生きた16世紀から顕在化し始めたのか、それともそれ以前から存在していた問題であったのか、コミュナリズムを本質化することの危険性と絡めて問う発言もあった。それに対して外川氏は、コミュナルな状況が特定の歴史的過程で生じたのか、時代を超えて普遍的に存在し得る問題なのかどうかは、今後さらに慎重に検討していく必要性があると指摘した。
 今回の発表では、これまでのインド研究においてヒンドゥー研究者の内部のみで閉じていた議論に対し、イスラーム地域研究の視座を導入しようという意欲的な試みが示された。またイスラーム地域研究に携わる者にとっても、インド研究における成果からヒンドゥーとムスリム民衆の関係が検証されたことで、複合現象としての「スーフィズムと民衆イスラーム」のより総合的な理解が可能になった。新たな研究手法を取り入れることで、本研究はポストコロニアル時代のヒンドゥー研究およびイスラーム地域研究に一石を投じるものであったといえる。

報告者:(朝田郁・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)




KIASユニット2 研究会(2007年5月21日 於京都大学)


題目:「コム在住のナジャフ学派ムジュタヒドの動向およびペルシア語におけるサドル(Muhammad Baqir al-Sadr)研究文献概観」
発表者:松永 泰行(同志社大学 神教学研究センター 客員フェロー)


 本研究発表は、二つの目的によって構成される。第一に、シーア派の世界的な学問都市の一つであるイランのコムにおける、イラクのナジャフで学んだ法学権威(marji` al-taqlid)の現状の社会的位置づけをめぐる分析。第二に、イラン社会で故ムハンマド・バーキル・サドル師(Muhammad Baqir al-Sadr 1980年イラクで処刑)の思想がどのように捉えられているかについて、出版状況の現状報告と内容紹介という形で情報を共有することにある。
 発表者は、ハウザ(ホウゼ)を個々に独立的に存在している諸マドラサの総体であり、緩やかな繋がりによって組織化されたものとして捉える。またコムのハウザには、コム神学校教員協会(Jame`e-ye Modarresin-e Howze-ye `Elmiye-ye Qom・以下JMHEQと略)がある。JMHEQは、1979年の革命以後継続する現体制であるイスラーム体制の支持派内の保守系のウラマーによって構成される。
 発表者はこのようなJMHEQをイラン政治のパワーセンターとして位置づける。現在では、同組織は故ボルージェルディー師や故ホメイニー師の非文化保守派以外の元学生から構成されているという。しかし発表者によれば、ホメイニー師が法学権威となった後の活動を考えた際、現実的にホメイニー師の学閥なるものは存在しないのではないかという。それは、ホメイニー師が大アーヤトッラー(Aya Allah al-`Uzma)となった後に、教授活動が可能であった時期が、ごく僅かであったためである。
 また現在のJMHEQの構成員には、ファーゼル・ランキャラーニー師(Mohammad Fazel Lankarani d. 2007)やマカーレム・シーラーズィー師(Naser Makarem Sharazi)のような現在の法学権威が含まれている。その一方で、同組織に含まれていないコムで学んだ複数の法学権威が、コムに在住しているという。発表者は、それらの法学権威が同組織に含まれていない理由について、体制との関係に焦点を分析を行う。すなわち、彼らは、非体制派であって「伝統的」なイスラーム思想を展開する法学権威、またホメイニー師の没後、コムでプレゼンスを確立していなかった法学権威と位置づけられる。
 このように非JMHEQ構成員の現体制下での位置づけの後、発表者はJMHEQとナジャフ学派の法学権威との関係を通じ、コム在住のナジャフ学派の法学権威がどのような社会的位置を獲得しているかについて分析を展開した。1994年12月に発表されたJMHEQが推薦する法学権威として含まれていたベフジャト師(Mohammad Taqi Behjat)、ヴァーヒド・ホラーサーニー師(Hoseyn Vahid Khorasani)、ジャヴァード・タブリーズィー師(Mirza Javad Tabrizi d. 2006)などが、コムで高い社会的地位を保持していると考えられる。またバーキル・サドル師の弟子であるハーシェミー・シャーフルーディー師(Sayyed Mahmud Hashemi Shahrudi)に関しては、現在の最高指導者であるアリー・ハーメネイー師との関係、またJMHEQのメンバーであることから、イラン社会の位置を確立した法学権威であると判断される。
 これらJMHEQの概要、またコム社会におけるナジャフ学派の法学権威の位置づけを分析した発表者は、続いて「知のインフラ」整備ともいえる、ペルシア語におけるバーキル・サドル師の研究文献の概観を行う。発表者によれば、バーキル・サドル師はシーア派の復興に積極的に関与した法学者としてイラン社会で敬意を示される一人である。そのバーキル・サドル師に関する研究文献の近年の出版状況およびその傾向について、非常に詳細な紹介が行われた。 参加者の中にはイスラーム学・イスラーム政治の専門家が幾人もおり、質疑応答でも白熱した議論が展開され、大変有意義な研究会となった。

報告者:(黒田賢治・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)





題目:「パキスタンの聖者信仰に関する文化人類学的研究 ――師弟関係と霊魂観からみた宗教世界の一考察――」
発表者:水野 裕子(広島大学大学院 国際協力研究科)


 水野氏の発表は、「スーフィズムと民衆イスラーム」という大きなテーマの中から、現代パキスタンの聖者信仰をルーフ(霊魂)や夢の観点から論じるものであった。発表者はラホールにある四つの聖者廟をフィールド調査の対象にし、聖者廟におけるピール(導師)、ムリード(弟子)、人びとの存在と、ルーフや夢の間にある関係に着目して発表を行った。
 上記の聖者廟において、ピールは聖者のルーフと通じる事によって、聖者の奇跡を現世に体現する。同時に自分の身の上に起こったさまざまな奇跡を人びとに語る事によって、ピールと聖者との強い結び付きが喚起させる。さらに聖者の命日祭に行われるダマール(舞踏儀礼)や集団唱名のような行為を通じても人びとは聖者のルーフを感じることができる。こうした活動によって、現在でも人びとは聖者に対して親近感を感じている、と発表者は述べた。
 続いて発表者は、ピールと聖者とのつながりによって明らかにされるルーフの存在の他に、人びとがルーフを経験する媒体として、夢の存在があることを指摘した。預言者や聖者、ピールが現れる夢は教訓や助言、警告、使命を示す意味あるものとされ、極めて重要なものとして理解されていることを、具体的事例を通じて述べた。ルーフが夢を通じて人びとに認識、理解され、現実世界の生活にさまざまな影響を与えている点が夢に関する人びとの言説によって明らかにされた。さらに、発表者はルーフが聖者に関する活動の基層にあり、それに基づいたつながりが現実世界においてなされていると結論付けた。
 その後の出席者を交えた議論においては、大きく二つの点が対象となった。第一点がピールをめぐる問題であり、第二点はルーフの問題である。
 第一点では、ピールがどのような存在であるのかについて活発な議論がなされた。その際、ピールにはある特定の(もしくは複数の)スィルスィラ(聖者の系譜)があることが明らかになった。スィルスィラを現代にまで受け継ぐピールが、聖者とムリード、人びとを取り結ぶ存在となっていることが明らかにされた。 第二点では、イスラーム世界においてルーフがどのように認識されているのかについてさまざまな議論が出た。その中で、聖者はルーフという形で生き続けており、それが現代においても人びとに聖者を認識させる背景となっていることが確認された。
 従来の「スーフィズムと民衆イスラーム」や「広域タリーカ」の研究においてもルーフや夢の存在は認識されていたが、研究や議論の中心的な対象とはなってこなかった。本発表はパキスタンという特定の事例を扱いながらも、ルーフや夢を議論の中心へと持ち出した点で、今後の両者の研究に新たな方向性を与えるものであると考えられる。


報告者:(安田 慎 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)



KIASユニット4 第一回研究会(2007年2月3日 於京都大学)




題目:預言者の医学―ザンジバルの事例から
発表者:藤井千晶


昨年2006年9月~12月に発表者が行なった現地調査の成果が報告された。まず、東アフリカにおける民間医療を扱った先行研究では、儀礼や呪術的な民間医療の中にイスラーム的要素を指摘しても、預言者の医学(tibb al-nabaw?)を個別に取り上げる試みはなかったことが紹介された。昨年の調査は、(1)預言者の医学に関する出版物調査、(2)預言者の医学に基づいて治療を行なう3人の人物(医療行為者と呼ぶ)への聞き取り調査であった。(1)の結果として、預言者の医学関連のものはスワヒリ語書籍に多く、現地で広く流通している様子が報告された。(2)の結果として、医療行為者は治療としてドゥアー(祈願)を行ない、薬や護符を与えること、患者からの相談内容は、体の不調以外に家庭問題や対人関係の悩みを含むことが報告された。発表者は、患者は身体的・精神的苦痛からの解放を求めて治療行為者を訪れるのであり、tibu(tibb)は「医学」というよりも「救うこと、癒すこと」と理解すべきだとした。以上を受けて、出席者からは治療行為者の自称と他称に相違はあるのかという問いや、西洋医療ではなく預言者の医学を選択する理由などは患者側への聞き取りが不可欠だという指摘があった。これらの観点は、今後の調査での課題とされるだろう。



題目:タリーカ組織論の射程―共同性と単独性、ミクロからネットワークまで―
発表者:新井一寛


発表者が専門とするエジプトのタリーカを中心としつつ、広範なトピックが扱われた。まずタリーカ組織論の概説、組織形態の分析に有効なモデルの紹介、「共同性」(タリーカや地域社会など諸々の共同体に所属するものとしての個人の性質)と「単独性」(神と対峙する個人の性質)という視点導入の提案などがなされた。続いて、映像人類学の概説として映像の諸形式の紹介や、タリーカ研究における映像活用の意義が述べられた。発表者は次の3つの意義を指摘した。(1)映像を資料、分析対象として活用することができる。(2)宗教実践を記録し、保存できる。(3)感情の高揚や人物の魅力を端的に伝えることができる。最後に、共同研究の枠内にタリーカ組織論研究を位置づけつつ、今後の研究構想が示された。組織論については、より多くの事例を蓄積し、分析を精緻化する意欲が示された。儀礼研究における映像活用の可能性も強調された。出席者からは、組織形態モデルについて、他の地域のタリーカにも適用可能であるかという問いが出された。国家主導で組織化されたエジプトのタリーカは特殊な事例であり、他地域への適用は留保される点が確認された。映像作品という形式で研究者の分析を十分に示し、学問として有意味なものとなりうるのかとの声もあった。これに対し、技術の進歩により容易に映像を利用できる現代の研究者は、積極的に映像資料及び手法を用いるべきだとの応答があり、教育現場で映像の導入が進んでいることも紹介された。さらなる展開の可能性を示す意欲的な発表であった。


報告者:加藤瑞絵(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)


 

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