• KIA/G-COE「生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点」イニシアティブ1/TUFS科研基盤(A)「現代中東・アジア地域における紛争・国家破綻と社会運動」/TUFS-ATPIC共催 国際WS
    (2011年10月8-9日 於京都大学)


    タイトル:"Transformation of Politics, Society and Culture in Eurasia"

    【プログラム】
    [Date and Venue]
    Date:8-9 October, 2011.
    Venue:Meeting Room (447) on 4th floor of Research Bldg. No.2, Yoshida Main Campus, Kyoto University

    [Language]
    English

    [Organizers]
    Kyoto University Global COE Program: In Search of Sustainable Humanosphere in Asia and Africa
    NIHU Program, Islamic Area Studies: Center for Islamic Area Studies at Kyoto University (KIAS)
    Conflict, Collapsed State, and Social Movements in the Contemporary Middle East and Asia(Grant-in-Aid for Scientific Research(A), JSPS: Tokyo University of Foreign Studies)
    Program for Enhancing Systematic Education in Graduate Schools “Advanced Training Programme for International Cooperation through Internship and Field Research (TUFS-ATPIC)”

    [Program]
    First Day: 8 October

    10:00-10:30 Opening Remarks: Prof. KOSUGI Yasushi (Kyoto University), Prof. SAKAI Keiko(Tokyo University of Foreign Studies)

    10:30-12:00 Special Lecture
    Dr. Ranjit Singh (Associate Professor, University of Mary Washington) "Some Reflections on the Arab Spring"

    13:00-15:15 Panel 1
    1. IMAI Shizuka (Kyoto University) "Transformation of Jordan’s External Trade in the 2000s: An Analysis of Economic Policies Dealing with the Challenge of Globalization"
    2. Nutan Sharma (Tokyo University of Foreign Studies) "Grass to Guns: Women in the Maoists Insurgency in Nepal"
    3. KAWABATA Aruma (Kyoto University) "The Halal Meat Market in the Islamic World"

    16:45-18:00 Panel 2
    1. KAWAMURA Ai (Kyoto University) "Dispute Resolution in Islamic Finance: A Case Study of the United Arab Emirates"
    2. HAGIHARA Jun (Kyoto University) "Saudi Arabia as a Petrodollar Driven Consumer Society: Review of Preceding Works and Proposal of a New Perspective"
    3. Patrick Mason (Tokyo University of Foreign Studies) "A Safety Net for the Conf lict Trap: Social Networks and Small Business Development in Afghanistan"

    [9 October]
    10:00-12:15 Panel 3
    1. SUNAGA Emiko (Kyoto University) "Tafsir Literature in Print Media: A Survey of the Quranic Interpretation in South Asia"
    2. ZOU Yi (TOKYO UNIVERSITY OF FOREIGN STUDIES) "Analysis on Students Anti-Japanese Sentiment and Policy Implementation toward Anti-Japanese Protests: A Case Study in Yunnan Province of China"
    3. OHASHI Kazuhiro (Kyoto University) "Islamic Revival in Early Modernity: A Preliminary Study on Al-Shawkani in Yemen"

    13:15-14:45 Panel 4
    1. Ladislav Lesnikovski (Tokyo University of Foreign Studies) "Identity politics in the Balkans: The Slavic Muslim minority in Kosovo"
    2. Nicolas Ballesteros Lopez (Tokyo University of Foreign Studies) "Roma, Ashkali and Egyptian Communities in Kosovo and the Impact of the International Community (1999-2008)"

    15:00-16:30 Panel 5
    1. Muhammad A. Ahmad Duhoki (Tokyo University of Foreign Studies) "Ethnonationalism in Contemporary Context: the Kurdish Question in Turkey under the AKP’s Government"
    2. SATO Marie (Kyoto University) "Lives of the Iraqi Refugees in Jordan: A Field Research Report"

    16:30-16:45 Closing Remarks




 本ワークショップは、中東政治の専門家であるメアリー・ワシントン大学のランジット・シン教授を迎え、ユーラシア大陸におけるイスラーム世界をはじめ、政治や民族紛争など様々なバックグランドをもつ若手研究者が一堂に会し、多角的な視点から自身の研究を深めることを目的として開催された。過去開催された同様の趣旨のワークショップと同様に、2日間で5つのセッションが組まれた。ワークショップの最初のプログラムとして、ランジット教授による特別講演が行われた。氏は、「アラブの春」とも呼ばれるアラブ革命について、氏のバハレーン滞在経験というマイクロ・ヒストリーを素材として、民衆が何故蜂起したのかを考察するという興味深い視角からの分析が披露された。そこでは、支配層である王族たちが置かれた境遇を踏まえながら、彼らの抱く民衆観や統治観が明らかにされていった。

 第一セッションでは、ヨルダン、ネパールに関する発表、および、マレーシアに関する発表がなされた。最初の発表は、2000年代のヨルダンの貿易と近年のグローバル化への対応を志向する経済政策との関連について論じ、それらが国内の製造業に与えた影響について考察した。2番目の発表では、共産党の兵士として内戦に参加した女性たちに焦点が当てられ、彼女たちの社会的位置づけが戦時と戦後で変化したことが報告された。3番目の発表は、ハラール市場に関する報告であり、そこではマレーシアおよびタイを事例としたハラール食品の認証、販売方法の比較研究がなされた。

 第二セッションでは、中東、南アジア諸国における経済に関わる発表が3つなされた。最初の発表では、アラブ首長国連邦における、法律の条文や民事紛争を扱う機関を考察し、イスラーム金融をめぐる民事紛争処理制度の実態について報告された。2番目の発表は、サウディアラビア経済を位置づける新たな分析枠組みとして産油国型消費経済が提唱され、その史的宇意義が紹介された。3番目の発表は、報告者自身が携わったアフガニスタンのマイクロクレジット事業から、債務者のネットワークがいかに安定的に機能するかについての分析枠組みが提示された。

第三セッションでは、南アジア、中国、イエメンに関する発表がなされた。最初の南アジアの報告では、クルアーン注釈書であるタフスィールがウルドゥー語、ヒンドゥー語、ベンガル語などでどのように書かれているのかについての分析が報告された。2番目の中国に関する発表は、雲南省における反日運動の事例を取り上げ、反日運動に関わっている民衆や学生たちと政府の関係について理論的枠組みが提示された。3番目の報告では、18世紀以降におけるイスラーム思想家シャウカーニーの影響力について、シャウカーニーの生涯や彼の思想的特徴を踏まえて考察が行われた。

第四セッションでは、バルカン半島における民族問題について二つのセッションが組まれた。最初の発表では、コソボ、マケドニアにおける民族の複雑な関係について紹介され、アイデンティティ問題としてセルビア人でもボスニア人でもないゴランス人の位置づけについての分析が報告された。2番目の発表では、コソボ共和国において、ロマとして分類されている人々が取り上げられ、その中に、アルバニア系のアシュカリ、エジプトから移動してきたと主張するグループがあることが紹介され、彼らが国際機関において認識されていないことの問題点が考察された。

第五セッションでは、トルコのクルド人とヨルダンのイラク避難民に関する発表がなされた。最初の発表では、トルコにおけるクルド人が、AKPやPKKなどの政党を設立し、トルコへの政治参加を進める一方で、トルコ政府の意図とのギャップからクルド人とトルコの間に政治的な溝が深いことが示された。2番目の発表では、イスラーム世界における難民問題について、ヨルダンにおけるイラク避難民を事例に報告がなされた。

各人の発表内容は、地域もディシプリンも多様ではあったが、分析手法や枠組みのあり方、研究の方向性について、2日間の報告と活発な議論によって、共有すべき、あるいは共有できる部分が多く発見できたことは、本ワークショップの大きな成果であったと言えよう。

報告者:川村 藍(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)