臨地教育研究による実践的地域研究者の養成

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科

セッション(午後の部)の報告

文責:西真如

午後のセッションの発表者はいずれも、「フィールド調査の実施」と「開発プロジェクトの実施」というふたつの局面で、ひとつの地域社会に向き合った経験がある研究者/実践者です。たとえば黒崎さんは、本研究科に在学中、青年海外協力隊員としてタンザニア南部における住民参加型農村開発プロジェクトの実施に携わった経験があり、現在まで同地域を対象とした調査・研究をおこなっています。

このような経験から三人の発表者は、地域社会と向き合う「よそ者」が直面する問題群について、深く考える立場に立たされてきました。

例えば黒崎さんは、地域研究者がフィールドでおこなう種々の実践と、近年の参加型開発の手続きとを重ね合わせることで、豊かな「開発の民族誌」を蓄積してゆくことが可能だと言います。

黒崎龍悟 「何が視点を変えるのか:開発の実践者/研究者としての経験をとおして」

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また小國さんは、ただ漠然と農村社会に溶け込み、その生活を記録しただけの「エスのグラフィー」が、開発介入への有意義な提言となることはないと述べた上で、伝統と近代化のはざまにある住民が、自らの社会を「変えようとする力」を読み解いていく必要があるのだと言います。

小國和子 「農村開発実践のエスノグラフィー:アクターとしてのわたしたち」

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さらに岩井さんは、タンザニアのセレンゲティ国立公園に隣接する村落でフィールド調査をおこなってきた経験を踏まえ、地域住民との協調のもとで、人と動物とのより良い関係を構築してゆく活動について論じています。自ら設立したNPOの代表もつとめる彼女は、セレンゲティ周辺の村人と、日本の市民や学生との間に積極的な関係を築いてゆく上で、地域研究の成果をどう生かせるか問題にも取り組んでいます。

岩井雪乃 「「よそ者」が生みだす相互作用を求めて」

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ところで、三人の発表者に共通しているのは、開発実践と地域研究とのインターフェイスという可能性について、楽観的な見通しを持っていることです。確かに近年の開発手法は、文化の多様性や、地域住民のエンパワーメントといった問題に、より多くの関心を払うようになり、「開発か文化か」という二者択一の議論は、あまり聞かれなくなりました。

他方で発表者らは、私たちが研究者/実践者として、地域住民の生活に介入を試みるとき、必ず直面する困難な問題群があるとも言っています。たとえば黒崎さんは、開発の現場で起きる「解釈のずれ」に着目しています。例えば地域住民が、開発プロジェクトの「本来の」目的とは全く違う視点から、そのプロジェクトを評価していることは珍しくありません。他方で小國さんは、「問題として意識されない構造的なゆがみや抑圧」という問題にも触れています。

これらの問題は単に、地域研究者と開発専門家の双方が満足するような「方法論を確立する」ことで解決される種類のものではないでしょう。必要なのは、開発介入の政策立案者には予測できない(しかし必然的に起こりうる)種類の「解釈のずれ」や「構造的なゆがみ」を問題化し、地域住民の側から介入の効果を捉え直してゆく取り組みなのかも知れません。

さらに言えば、そのような地域研究の成果を、日本で生活する市民や学生にどう伝えてゆくかということも、(岩井さんの取り組みにならって)十分に意識していく必要があるようです。

作成日: 2007年3月29日 | 作成者: 事務局