アジア・アフリカ地域研究情報マガジン:メルマガ写真館

第68回 「メルマガ写真館」

「揚魚売り、はじめました」
...神代ちひろ(アフリカ地域研究専攻)

 

 

私の調査地ブルキナファソのパラコ村は、自給自足をベースとした生活が営まれている農村です。ある日、お世話になっている家のお母さん(写真右奥)が、身重の体で新しい商売をはじめました。大量に仕入れた川魚を、素揚げにして販売するというものです。

 

体調不良の日が続くお母さん。「出産してから商売をはじめればいいのに」と言う私に、「でもお金が必要だ。お金が私たちを苦しめる!」と冗談半分に返します。日々の料理に使う調味料から学費まで、パラコ村でも現金が果たす役割が大きくなってきているのです。

 

今回の商売の元手は、夫からもらった10,000F(約2,000円)でした。お母さんは所属する住民組織をとおして小口融資を受けることもできますが、利用はしていません。以前、融資を受けておこなった小商いがうまくいかず、利子つきで返済をしたら逆に赤字になったからだそうです。

 

少額の信用貸付をおこなうマイクロファイナンスのとりくみは、貧困緩和に有効だとして高い評価を受けています。一方で、お母さんが言ったようなことばや取った選択が、今後マイクロファイナンスに関する研究を進める上での鍵を握っているように思えます。パラコ村にもマイクロファイナンスを通して大量に現金が流入しています。それが進んでゆくと、今までは物のやりとりや助け合いで成り立っていた部分までもが置き換えられてゆき、村の人びとはますます現金を稼ぐ必要に駆られてゆくのかもしれません。

 

身重の体に体調をおして商売をはじめた理由をそんな風に考えて、一生懸命なお母さんの姿に完売をねがいながらも、今夜の食卓にあがるはずの売れ残った魚のスープのことを思い浮かべると、おもわず私のおなかは鳴るのでした。