アジア・アフリカ地域研究情報マガジン:メルマガ写真館

第111回 「メルマガ写真館」

「神の交差点」
...林育生(東南アジア地域研究専攻)

 

バンコクのラチャプラソン交差点周辺は、ホテルや百貨店などの商業施設が林立し、タイの経済や観光の中心地のひとつと言っても過言ではありません。しかし、こうした近代的な施設が充実している中には、四面佛としてタイ国内外の人々に親しまれているエラワンの祠など、信仰の対象となる宗教施設があり、これらもまた、多くの信者や観光客を集めています。

 

「神の交差点」と呼ばれるラチャプラソン交差点には、四面佛の他に、少なくとも七位のヒンズー教系の神々が鎮座しています。これは、タイの土地神(sanphraphum)信仰と関わるものですが、この交差点周辺の神々はむしろ、この地区の歴史を刻んでいるものと言えるでしょう。王宮から商業施設の歴史変遷、経済発展、政治的軋轢など、ラチャプラソン交差点周辺の神々は証人としてこうした歴史を見守ってきました。

 

しかし、ここを訪れる大多数の人にとっては、願いをかなえることこそ第一にして最大の目的でしょう。梵語、パーリ語、タイ語が入り混じった真言には、商売繁盛、恋愛成就、美容など人々の願いが込められています。このエリアは、世界に大きな衝撃を与えた2015年8月17日の爆発事件の舞台となりました。今後ここにいる神様らは、個人の願いだけでなく、こうした歴史的事件をもまた背負っていくのではないでしょうか。

 

(写真は、バンコクのラチャプラソン交差点に位置するゲイソン・ショッピングセンター4階にあるラクシュミーの祠です。)