アジア・アフリカ地域研究情報マガジン:メルマガ写真館

第125回 「メルマガ写真館」

「今日も魚がとれましたよ」
...瞿 黄祺 (アフリカ地域研究専攻)

 

 タンザニア南部のムベヤ州キエラ県はおいしいコメの産地として知られています。おいしさの訳を探るべく、その日も私は朝から水田を歩き回っていました。陽も傾き家路につこうとしていると、数人の少女たちが用水路に入って蚊帳の切れ端で魚を捕ろうとしていました。

 

 ニャサ湖(マラウィ湖)に注ぐ天然の用水路には様々な魚が上がってきます。そのなかで、もっとも大きい魚がヒレナマズです。ヒレナマズは、雨季になると川を遡上し、流れの緩やかな浅瀬に卵を産み付けます。田植を終えた水田はヒレナマズにとって絶好の産卵場所となっています。メスを追いかけて水田に入ってきたオスたちは背ビレを水面に出しながら大乱闘を演じます。水田を荒らしているように見えるのですが、オス同士の大乱闘は、実は水田の除草に役立っているのです。ティラピアやコイ科の小魚も産卵に上がってきて、ヒレナマズとともに人々の貴重なタンパク源となっています。

 

 農薬の使用が常態化している日本の水田では昆虫や魚をほとんど見かけませんが、比較的最近まで日本でも水田や水路は重要な漁場だったといいます。魚を捕る少女たちの姿は、人が自然とともに暮らしてきた水田の原風景を思い起こさせ、そこにキエラ米のおいしさの秘密を見つけた気がしました。