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東南アジア地域研究専攻
第2回 竹田晋也:生態環境論講座

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「セーバンファイ川遡航記」
12月にラオスのセーバンファイ川へ行って来ました。セーバンファイ川はラオス・ベトナム国境の分水嶺を源とする、メコン河の支流です。 upstream of
メコン河の港町ターケークの市場で、軍用四輪駆動トラックを改造したバスを借り上げ、でこぼこの国道12号線を東へ進みました。ベトナム国境直前で南へ折れ、石灰岩の壁に挟まれた谷底を進みます。いやに風の強い谷です。ここからはかつてのホーチミンルートの核心部分で、道の両側には爆撃跡の穴凹が点在し、道路わきの土の中から真新しい不発弾が半分だけ露出しているのを見ながら進みます。日が暮れるまでに何とか最後の村に辿り着き、その夜は村長さんの家に泊めてもらいました。
翌朝、小船に乗ってセーバンファイ川を遡りました。セーバンファイ川を遡ると、最後は石灰岩の壁に囲まれた小さな湖に突き当たりました。水は壁にあいた洞窟の中から流れ出てきます。僕たちは、小舟で近づき中に少しだけ入ってみましたが、洞窟の中は激流の音が轟き何とも恐ろしげです。この洞窟の中には得体の知れぬ生き物が棲んでいて、日に三度「バシャーン」と大きな音がするそうです。
Iさんは、ここで念願の新種のハゼを捕まえました。皆、目的を達した満足感とともに、川を下って行きました。途中、サイチョウのつがい二組が、頭上を横切って行きました。ラオスとベトナムを分ける分水嶺であるアンナン山脈では、1992年にサオラーという新種の牛が見つかり大きなニュースになりました。その後、1994年に新種のオオホエジカ、1997年には新種のヒメホエジカ、1999年には新種のトラフウサギが見つかるなど、大型哺乳類の「発見」が続いています。このあたりは、まだ知られていないものがいっぱい詰まったフィールドなのです。
夕刻、小舟は無事に村に帰着しました。その夜、川で水浴びをしようとした時、僕は、足下に星空が広がる不思議な光景に出会いました。風がぴたりと止んだ12月の新月の夜、満天の星空がそのまま川面に映っていたのです。それは宇宙の渕をのぞき見るような光景でした。
From: 竹田晋也 (生態環境論講座)