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東南アジア地域研究専攻
第4回 加藤真理子:東南アジア地域論講座

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東北タイ農村に長い間居ると、村で唯一カメラを持つ私は、様々な行事のカメラマンとしてよくひっぱりだされます。この写真は、Sさん(中央一番上の女性)に頼まれて、息子の得度式を撮った時のものです。中央左、出家したての僧侶が、Sさん自慢の一人息子です。
この写真を撮った翌日、Sさんは夫が運転するバイクから落ちてしまい、強く頭を打って意識不明の重体。私を含めて村中の人々に衝撃が走りました。一時は生死が危ぶまれたものの、Sさんは奇跡的に助かり、現在自宅で療養しています。「ああ、よかった」と思いつつも、事故後彼女の言動の変化が気になるのです。
彼女が事故にあったのは、町にある守護霊の祠の前。「あの方(守護霊)が向こうに連れて行こうとしたの」「前世の夫が、よりを戻そうとしに来たの」と言いだし、日を追うごとに彼女は、事故の原因と生死をさまよった時見た天国の模様とを、詳しく描写するようになりました。
最初はバラバラだった話も、いろんな人に話すうちにまとまりを持つようになり、私が聞いた最新の語りは、前世の夫が連れて行こうとするのを拒否した彼女は、閻魔に一緒に行くべきなのかどうなのか尋ねるというものです。閻魔は帳面を見て「まだその時ではない」と答え、人間世界に帰るように言いましたが、彼女はお寺の門が見えたので行きたくなり「入っていいか」と尋ね、許可をもらいます。その寺には菩提樹があり、子供たちがいろいろな果物を取っていました。次に地獄を見せてくれと頼み、残りの時間を地獄で過ごした後、人間界に帰ってきました。「でもその前世の夫の名前が、どうしても思い出せないのよね」と彼女は言います。
天国を見てきたと言う彼女は、現在様々な仏教行事でのアイドル的存在。行事の司会者も「功徳をたくさん積んだので、死んでも生き返ることができたSさん」と紹介しています。この写真を見るたびに、複雑な気持ちになるのです。
From: 加藤真理子 (東南アジア地域論講座院生)