<< フィールドからの絵葉書:アフリカ地域研究専攻

アフリカ地域研究専攻
金子守恵



     





To: The Readers of ASAFAS Home Page, JAPAN





From: 金子守恵(アフリカ地域研究専攻)

 エチオピア西南部の村からお便りします。

 アリの人々が暮らす土器作りの村を訪れるようになって4年目になります。ここでは土器をつくるのは女性だけで、彼女たちが世帯の生計を支えています。

 いつもなら朝食が終わるとすぐに土器作り小屋にむかうデイが、その日に限っていつまでも腰をあげようとしません。訝る私に、彼女は、夫のナツァが磨き石(アリ語でズークサといいます)を隠してしまったようだから尋ねてくれと頼みました。

 ズークサは、成形し終えた土器を磨くための石です。乳白色をしたものから、漆黒色、中には水晶のようにみえるものもあります。ズークサで土器の表面を磨くことによって、焼成後の土器に独特の光沢がうまれます。一人前であればみな自分のズークサを持っています。入手方法は様々で、川で拾ってきたり、祖母や母親から譲り受けたり、石の産地から購入することもめずらしくありません。

 彼女たちに言わせれば「ズークサは職人の命」なのだそうです。実際、彼女たちは、親戚のうちに挨拶に出かけるときも、夫とケンカして家をでるときも、この磨き石を肌身離さず持ち歩いています。夫もこのことはよく理解しており、ズークサが見あたらなくなると、家出の計画を疑って妻に文句をつけたり、出て行きそうだと察知するとすぐに石を隠したりします

 結局デイのズークサは、その日の夕方、家のベッドの下から発見されました。ナツァが隠していたのか、それともデイが置き忘れただけなのか、それは結局私にはわからずじまいでした。夕食の支度中、石がでてこなかったわけを尋ねる私に、デイは「彼はせっかちでよくないわ」というばかりでした。

 その数日後、デイは磨き石をもってふいっと家をでてしまいました。いまは、ナツァが彼女を実家にむかえにいっているところです。

 それでは、またお便りいたします。