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From: 岡本雅博 (アフリカ地域研究専攻)

 前略,ザンビアからお便りします。中南部アフリカを流れるザンベジ川の上流域には氾濫原が形成され,ロジと呼ばれる人々が暮らしています。

 氾濫原では雨季になると,ゆっくりと増水が始まります。比高2〜3メートルの高みに設けられた村も,しばらくすると写真のように水に浸かるようになります。その頃になると,丸木舟に家財道具を積み込んで氾濫原の外に脱出する人もいますが,氾濫原に残る人々も数多くいます。私も彼らと一緒に氾濫原の村に滞在し,洪水期の生活をじっくりと味わっています。

 ロジの人々は,家屋が浸水してもとくに大騒ぎすることはありません。町から持ち込んだスティール製のベッドをもつ者は,その下を水が流れていようとも悠々と眠っています。そのようなベッドをもたない人々は,植物の茎や丸木を幾層にも重ねたうえに茣蓙を敷き,自家製ベッドを作って寝所を確保しています。また,村の近くにあるシロアリ塚起源のマウンドの小さなスペースに,仮小屋を建てて移り住む人々もいます。その微高地は村の創設者の埋葬地なのですが,例年よりも洪水の規模が大きい今年に限って村長は滞在を許可しました。

 「洪水期の生活はすばらしい」と人々は言います。それを私なりに解釈すると次のようになります。まずトウモロコシの収穫が済んだばかりなので,この時期は一年のうちで穀物がもっとも豊かにあります。そのうえ水位が上昇するにつれて漁獲も豊富となるため,その日に獲れた魚が毎日の食卓にのぼります。また氾濫原を流れる水は濁りもないため,生活水にも事欠きません。そしてこの時期,彼らが保有する牛は氾濫原の外に住む他民族の村に預けられているため,人々は毎日を自由に過ごすことができます。

 ザンベジ川の氾濫水がゆっくりと流れるように,ここでは時間も止まっているかのような錯覚を覚えます。洪水が引くと,農作業や牛追いが始まり,人々は忙しく働くようになります。その頃,またお便りします。