安念 真衣子

安念 真衣子(南アジア・インド洋世界論講座)
「サッカーをめぐり交錯する熱き思い」

     2014年6月、W杯がブラジルで開幕しました。ネパールでも、首都カトマンズの町中にはさまざまな国旗が翻り、衣料品店には各国のユニフォームが並び、街行く人々は自分が応援する選手の背番号を身にまとっていました。私の調査村でも、試合結果が話題となり、学校の休み時間には子供たちがボールを追いかけていました。

     そんなある日のことです。村内サッカー大会が開催されました。9つの地区チームによる数日間にわたる対抗試合には、各チーム、強力なメンバーを揃えてきます。普段は、出稼ぎや学業のため村にいない若者が、この試合のためだけにバイクに乗り合わせて運動場へ集まります。長らくその村に住む私でさえ、こんなに青年たちがいたのかと驚くほどです。

     決勝戦の日。朝から話題は試合を見に行くかどうかでもちきりでした。農繁期のさなかで多忙であるため、見学にいくことを許可されないことを予測して数日前から親に頼み込んだり、「許可が出るように親にお願いしてよ」と私に言ってきたり、みな準備は万全です。女の子たちは、とっておきのお洒落服を身につけ、メイクをきめて、慣れないヒールサンダルを履き、見学に出かけます。

     いざ、試合が始まりました。整地されていない、でこぼこの地面。実際のコートとは異なる広さ。丘陵地の頂上部分を切り開いてできた運動場からは、ボールが少し大きく飛んだだけで段々畑の下まで転がっていき、子供たちがボールを取りに斜面を駆け下ります。魅せるプレーに、黄色い声援を送り、歓声を飛ばす観客たち。ゴール!笛の音が鳴り響きました。しかし、ゴールラインを割っていない!と猛反発する相手チーム。ビデオ判定などありません。疑惑が残るまま試合が終了しました。

     踊りまくる勝ったチームの選手と地区の人びと。一人ぽつんと群集から離れ泣き伏す選手。疑惑に不満をこぼすサポーターたち。

     家に戻ると、試合に行かなかった家の人が不機嫌な様子でいます。反対を押し切って行ったことを怒っているのだろうか・・・。気まずい食事をしていると、外からは賑やかな音楽と甲高い笑い声。なんと、勝ったチームがトラックの荷台に乗ってパレードをしているのでした。

     翌日、不機嫌の理由が判明しました。農作物でようやく稼いだ3千ルピーのうち、サッカーの勝敗に1千ルピー賭けて負けていたのです。

     全力でサッカーを楽しみ、黄色い声援をあげ、歓声を飛ばし、ブーイングを浴びせ、賭けをおこなう。いびつなコート設備に曖昧な判定・・・。セッティングこそ公式なものとはほど遠いのですが、ところ変わっても、人びとが思い思いに楽しみ一喜一憂する姿勢は変わらないと、親近感をおぼえるのでした。
    【「アジア・アフリカ地域研究情報マガジン」第141号(2015年3月)「フィールド便り」より引用】
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