アジア・アフリカ地域研究情報マガジン:メルマガ写真館

第41回 「メルマガ写真館」

「一袋のポップコーン」...阿瀬川慧(東南アジア地域研究専攻)

 

カメルーンの首都ヤウンデから四駆に乗ってひた走ること数時間。途中、立ち寄った小さな街でポップコーンを売る少女に出会った。彼女が頭の上にのせているお盆には、しっかりと弾け、パンパンに袋に詰まったポップコーンがきれいにならんでいた。幼いときに食べた記憶を思い出し、ひとさし指を一本たて、彼女にひとつ欲しいと、伝えた。僕の様子をみた彼女は、お盆に添えた片手を放して五本指を広げた。僕はひとつ5Fcfa(=1円)思い、10Fcfaを手渡すと、彼女は頭のお盆を支えながら首を横にふったのだ。僕は、50Fcfaのところを一桁間違って支払ってしまったことに苦笑しながら、残りの40Fcfaを手渡した。彼女は呆れた表情をしながら、すぐ後ろにあったガードレールに腰をおろした。

 

僕は、「アフリカは物価が安い(はず)」と安易に考えていた自分を恥じた。僕の調査地のインドネシアと比較すると、ポップコーンに限らず、今回訪ねたカメルーンではどの地域においても物価は決して安くはなかった。インドネシアに暮らす人たちは、「日本=物価がものすごく高い。物価が高い=良い生活している」というイメージを日本人に対してもっている。

 

僕たちが日々、新聞やテレビの報道で知らされる情報は、誤った考えや先入観を植え付けてしまうことがある。疑問をもたなかった「あたりまえ」のことを、実際に自分の目で見て考える、それがフィールドワークの醍醐味なのだと、たった一袋のポップコーンから考えるにいたった。

 

僕がサンキューと言って車に戻ろうとすると、メルシーと小さな声が返ってきた。ポップコーンには塩に加えて砂糖が少しだけかけてあり、カメルーン独特の味つけのようだったが、どこか懐かしい味がした。

 

アジア・アフリカ地域研究マガジン第76号(2009年10月配信)