アジア・アフリカ地域研究情報マガジン:メルマガ写真館

第58回 「メルマガ写真館」

「砂漠のチョコレート」...藤岡悠一郎(アフリカ地域研究専攻)

 

2010年11月、ナミビアで開催されたフィールド・スクールにスタッフの一員として参加させていただきました。ナミビアはナミブ砂漠を抱える乾燥国です。このスクールでは、ナミブ砂漠のど真ん中に建てられた砂漠研究所を拠点に自然環境の観察を行い、また近くの集落に暮らすトップナールの人々に砂漠での生活を教えてもらう計画にしていました。

 

トップナールの集落では、現地語でナラとよばれる、ウリ科植物の果実の利用方法をみせてもらいました。ナラの果実を利用した様々な食べ物のなかでも、とくに感動的においしかったのが、ナラの果肉を煮たものを薄くのばして乾燥させた「トゥワクルベ」という食べ物です。ナラは小さなメロンのような形・味なのですが、濃縮した果肉を板状に固めたその固形物体を、集落の男性は「ナラのチョコレートだ」と説明してくれました。

 

集落を訪れる数日前、ちょっとした問題が生じました。ナラに関する観察を行う場合、集落の人々の許可だけでなく、地域を統括するチーフの許可が必要であることを、案内をしてくれる男性が伝えてきました。近年、果実を勝手に採集する地域外の人が増え、商品化のための調査を行う団体が現れてきたため、ナミビア政府とトップナール・コミュニティとの間で、ナラを地域の財産として認める取り決めがなされたそうです。そうした背景には、研究者によって出版された、ナラの利用に関する本の影響があったと、その男性は話していました。本によってナラのことが広く知れ渡ると共に、人々が自分達の知識を勝手に広められたことに憤りを感じたと話していました。集落では人々はとても親切に、積極的にナラのことを教えてくれましたが、研究者がフィールドワークの成果をどのように発信していくべきかを考えさせられました。砂漠の集落であっても、貴重な資源やその利用に関する知識をめぐり、村人が様々な外部アクターと関わっていることを実感し、砂漠の「チョコレート」に将来の懸念と期待を感じつつ、集落をあとにしました。

 

アジア・アフリカ地域研究マガジン第92号(2011年3月配信)