• KIASグローバル研究セミナーハーレド・ファフミー教授研究講演会"Islamists, the Military and the 25th January Revolution"
    (2014年2月7日 於京都大学)


    日時:2014年2月7日(金)16:00-18:00
    場所:京都大学稲盛財団記念館3階小会議室

    プログラム:
    講演者:ハーレド・ファフミー(カイロ・アメリカン大学・歴史学科長、元ニューヨーク大学)
    タイトル:"Islamists, the Military and the 25th January Revolution"

    使用言語:英語

    主催:
    NIHUプログラム・イスラーム地域研究・京都大学拠点
    科研費・基盤研究(B)「「アラブの春」の社会史的研究―エジプト「1月25日革命」を中心に―」(代表:大稔哲也)




 カイロ・アメリカン大学歴史学科長のハーレド・ファフミー教授を招聘し、1月25日革命以降のエジプト情勢に関する講演会が開催された。エジプトでは2011年の革命の翌年、大統領選挙によってムスリム同胞団出身の大統領が誕生したが、13年6月30日から始まった民衆デモとそれに続く軍事クーデタによって退陣を余儀なくされた。今回のムスリム同胞団政権の崩壊は革命の成功といえるのか、1月25日以前のような状況に逆行するのかという関心にもとづいて、講演は行われた。

 まずファフミー教授によれば、1月25日革命前に長らく続いていた独裁政権は、ムバーラク主義とでも呼ぶべき、エリート中心主義、国家の父権性、暴力の内在性という3つの特徴を有していたという。現在も国内に多くの共鳴者を持つナセル政権がある意味平等主義的であったのに対し、ムバーラク大統領は単なる空軍士官出身の人物に過ぎず、政権のレジティマシーも欠いていたという。さらに、ムバーラク政権の暴力的性質を象徴してきたのが、警察の存在であった。エジプトの治安の欠如、警察による拷問の存在などは教授の個人的経験として繰り返し強調された。

   一方、ムスリム同胞団は元来革命の中心的な勢力ではなく、政権が成立しても治安セクターの改革はなされなかった。また、元来開放的な組織ではなく、政権獲得後には、政治ゲームの中で様々な革命勢力に打撃を与える方向へと向かっていったという。特に、モルシー大統領が自身の権限の強化を定めた大統領令を発布した瞬間が、「国家の同胞団化」が明らかになりすぎた一線であったとファフミー教授は評価する。現在の同胞団は軍による提案を受け入れて政治的降伏を行い、閉鎖的なセクトではなく政治的な統一体へと改革を行っていくしかないとの見方が示された。

 結論としては、6月30日以降の一連のデモおよびモルシー政権の崩壊は、イスラーム的言説を通じて国を支配する試みの終焉であり、同胞団勢力が主導権を握る展開がもう一度起こるとは考えにくいとのことであった。リベラル勢力に関しては、ムバーラクの下で政治を経験してきておらず、政治的プラットフォームを持たないことが懸念材料である。

 治安が保障された国家の出現を待ち望む一方で、革命を通じた国民の疲弊も著しいとのことであり、エジプトの今後の見通しが不透明であることを痛感した。国家の治安は、本講演の中で提示された重要な観点のひとつであり、今後の展望としても、治安セクターの改革の必要性が指摘された。

黒田彩加(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科)