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地域研究とはなんだろう

【中高生のための地域研究】
・地域研究とはなんだろう
ASAFASの大学院生は、アジアやアフリカなど日本とは異なる地域に出かけ(ただしコロナ禍で渡航できない時期は国内調査をしています)、その地域を知るために現地調査を行っています。その研究テーマにより、調査内容はさまざまです。農業をテーマにする人は、農村に住み込んで村の人たちに農業や作物について教えてもらい、畑の大きさを測らせてもらったり、ときには一緒に農作業をするでしょう。イスラームの思想を学ぶ人は、その国の図書館でテーマにそった資料を収集し、読み込み、また現地の知識人の話を聞かせてもらったりするでしょう。地域研究は、その地域にまつわる生活・文化・経済・社会・政治・思想などを現地で学び、理解する学問だといえます。

現地に飛び込んで調査することは勇気がいることで、安全対策も欠かせません。しかし、「おっくうだ」と思わずにやってみると、地域研究は他の学問にはない魅力があることがわかるでしょう。百聞は一見に如かずといいますが、行くまでは想像もしなかった事を、周りの協力を得ながら発見していくことは、何にもかえがたい喜びと充実感があります。また、現地で協力してくれる方々との交流は、調査や研究を超えて続くこともあります。それも、地域研究者の財産になります。

みなさんも、ASAFASで地域研究にチャレンジしてみませんか。これからの毎日のなかで、さまざまな国や地域の情報にふれ、とくに興味を惹かれること、これをもっと知りたい、といったことをたくさんもって、ASAFASを受験してください。文献やネットの情報だけではわからないことが、現場には溢れています。

ASAFASの3つの専攻(東南アジア地域研究専攻アフリカ地域研究専攻グローバル地域研究専攻)では、それぞれ毎年「オープンキャンパス」を実施しています。地域研究の魅力を、具体的に感じることができるはずです。大学生だけでなく、高校生、中学生の方でも参加できます。興味をもった人は、ぜひ申し込みのうえ、参加してください。募集時期などは、ASAFASのウェブサイトや各専攻のウェブサイトからお調べください。

女子学生による地域研究

「娘」として、「母」として、タンザニアの人びとと暮らす

高村(井上)満衣さん(アフリカ地域研究専攻・大学院生)

聞き手 平野(野元)美佐(アフリカ地域研究専攻・教員)

――――高村さんは、このたび「未来を強くする子育てプロジェクト」でスミセイ女性研究者奨励賞に選ばれました。おめでとうございます。

ありがとうございます。

――――住友生命さんによるこのプロジェクトももう第17回を迎えるようですね。「子育てをしながら研究者として成長していく方を支援したい」という趣旨の賞なんですね。高村さんご自身、今回受賞者に選ばれたのはなぜだと思われていますか。

はい。 私の今置かれている状況が学生であり、なおかつ子どもが2人いるっていうのと、旦那もフィールドワーカーというこの2点が大きかったのかなって思います。

高村さんご一家(両手を広げているのが高村さん)

――――高村さんは現在アフリカ地域研究専攻の学生さんで、お連れ合いさんも同じ専攻の卒業生ですね。お2人の間に2人のお子さんがいらっしゃいます。今日も高村さんは、次男くんを抱っこしながらのインタビューです。お子さんについて少し教えていただけますか。

はい。1人目は今5歳のとても活発で元気な男の子です。2人目はこの(抱っこされている) 現在 7ヶ月の子です。今回受賞された研究者の中には、夫婦二人とも フィールドに行って調査をするっていう方はいらっしゃらなくて。やはり私たちの場合、どちらもフィールドに行かないと研究が進まないので、交代でワンオペをしながらでも、どちらかがフィールドに行って研究を進めるっていう状況が、ほかのお子さんのいる研究者よりも厳しいところなのかなと思います。今回、そのことについても応募の申請書に記載させてもらいました。「どうしてもフィールドに行きたい」、そして「子どもを連れて行きたい」っていうことも書きました。今年(2024年)の夏、子どもを連れてフィールドへ行ってみようと思っています。

――――そうなんですね!連れて行くのは上のお子さんだけですか?

いえ、2人とも連れて行く予定です。旦那はもともと私のやっているタンザニアの隣国コンゴ民主共和国でフィールドワークをやってきたんですけど、フィールドを拡大してタンザニアの方でも調査をしようかなと考えているようです。そこで今回、予備調査として一緒にタンザニアに入る予定で、家族4人で行ってみようかなと思っています

――――素晴らしいですね!今いろいろお話いただいたんですけれど、私たちの大学院ASAFASでは「地域研究」といって、ある国や地域を選んで研究テーマを決め、そのテーマを深めることを通じて地域を理解するということをしています。高村さんはタンザニアという国で研究を行われていますが、ご研究について少し教えてください。

私はタンザニアの西部にあるキゴマ州というところで、子どもたちが小学校でどういうふうに活動しているか、そして小学校の中の活動から彼らがどう進学していって、どういう進学先に進んでいるか、また中退した場合には、その後にどのように生計を立てているのか、どうしてその道を選んだのかというライフコースを研究しています。

――――子どもたちの学校とライフコースの関係、とても興味深いですね。その研究を通して、高村さんが感じている地域研究の魅力、面白さはなんでしょうか。若い10代の方に伝えるとしたら、どんなことが面白いよっていうふうになるでしょうか。

――――なるほど!本当にそうですね。いつしかフィールドは自分の故郷になっていいきますね。地域研究はそのように継続的に地域や地域の人びとに関わっていくことが特徴かもしれません。高村さんは子育てをしながら、フィールドでも「子ども」と関わっていますが、女性が地域研究をするうえでのメリットは感じていらっしゃいますか。

「娘」時代の高村さんとタンザニアの子どもたち

はい。これはオープンにすべきかちょっとわからないんですけど、日本では男女共同参画や男女平等などといわれていますけど、フィールドでは少し異なります。フィールドでは女性だから危ない目に遭うとも言われますが、一方で、けっこう守ってもらえるんですよね。フィールドに行っても、信頼できる人ができれば、「娘」としてすごく守ってもらえます。だから女性だと、融通を利かせてもらいやすいのかなと考えています。また女性の方が、相手も柔らかく接してくれる気がします。これはタンザニアで、男性よりも女性の方がすんなりフィールドに入ることができている気が私にはするだけですけど。 自分の感触としてもすごい守ってもらえていて、最初私がフィールドに入った時は、何も知らない娘がやってきたという感じで、フィールドの人からあれこれたくさん教えてもらい、色々な情報を話してもらえました。それから、ある家の家族の娘として村で認識されていくと、その家の「娘」なので、学校の子どもの調査をしていても、(まわりは)何も知らない若造に話すという態度ではあったんですね。最初の博士予備論文(修士論文相当)の時の調査は、子どもの研究をしていたので、私は自分自身も「娘」という子どもの立場からデータを見ていたんです。でも結婚して出産して親になった時にそのデータを見返すと、そのデータに対する私自身の見方もちょっと変わっていたし、フィールドにおいて見えるものも変わっていました。 私の印象に残ってるのが、フィールドで、「君はもうお母さん。誰かの妻でありお母さんだから、尊敬され敬われる立場である」、みたいなことを言われたことです。また、アフリカでは女性は男性から声をかけられやすいんですけど、そういうのも、私の村では「人の妻だからしちゃいけない」と。そういうのは私に対してしてはいけないんだっていう話を聞いた時に、以前は娘として守られていて良かったんですけど、ああ私は今、自立した女性として見られてるんだなという変化を感じました。

地域研究をしている皆さんそうかもしれないんですけど、フィールドに行くと、やっぱり喜怒哀楽が私自身けっこう激しくなるんですね(笑)。日本だと空気というか、そういうのを読むのが当たり前っていうのが、フィールドに行くと当たり前ではないので。逆に自分の感情を出していかないと相手に伝わらないし、そういう面ですごい自分らしく、何て言うんですかね、もう自分をこう出しながら相手に関わっていくことで、相手も心を開いてくれることになります。地域研究って一つの場所に皆さん長く行かれると思うんですけれども、私も2016年にそのフィールドに行き始めてからずっと同じフィールドに行ってるので、家族のように受け入れてもらっていて、それがやっぱりどんどん居心地が良くなっていって。もう自分の第2の故郷 じゃないですか。そういう新しい自分の居場所ができるっていうところが魅力的です。さらにそういう居場所ができたら、その彼ら彼女たちのことを知りたいという欲求がどんどん出てきます。私の研究に関していえば、当初は小学校5年生だった子どもたちが、 今もう20歳前後まで成長しています。彼らがどういうふうに成長していくかを見守っていけるっていうのも地域研究の醍醐味です。私の人生は1つですけれども、研究でいろんな人の人生を見られるっていうのが、人生を何倍も何倍も経験してるみたいな感じで、すごい楽しんでいます。

調査についていえば、自分が母親になったので、子どもたちの保護者からのデータがけっこう取りやすくなりました。同じ立場として親の目線から語れるようになったのも自分のデータが厚くなるきっかけになったかなと感じます。

「母」となった高村さんとフィールドの母と妊婦と中学生

――――今のお話のとおり、地域研究では自分のポジションや立場が変わることで相手も変わっていきますね。そして自分もフィールドの人たちも成長し、変わっていく、そういうダイナミックな地域研究の面白さを今具体的にお話していただいたと思います。

自分がこれまで気にしていなかったデータが、今は急に入ってきたりするんです。たとえば、私自身も意識してなかった話を向こうから。女性だと、「避妊とかをどうしているか」とかそういう具体的な話を聞かれたりすることがすごく増えました。そういうフィールドでの夫婦間の話だとかそういうプライベートな、これまで入りにくいような話も向こうから女性たちが話してくるようになったのは、私としても大きい変化だなと思います。いろんなデータが多様化していくというこういうメリットもたくさんあるっていうことは是非言いたいですね。「(こちらが変わると)やはり向こうの人からの話がこんなにも変わるのか!」っていう経験は、子どもができて経験できたことです。また10代の方たちに言いたいのは、10代で初めて大学に入られてフィールドワークをするとして、その「娘」という守られる立場だからこそ感じる「もやもや」があると思うんです。ですけど、そういうのも大事で、全部残しておいて欲しいと思います。今の私がそのデータを取ろうとしてももう取れないことがあります。あの頃の「もやもや」とかも全部書いておけばよかった、というぐらい自分には後悔の念があるんですけど。その時その時にしか取れないものがあるので、全部残しておいて欲しいなと思います。独身時代、若い娘時代にしか感じられないこととか、扱われ方みたいなものも、それはそれでやはりすごく豊かなことですから。

――――なるほどそうですね。昔が悪くて今が良いわけでもなく、フィールドではその立場その時にしか聞けない話があり、体験できない感情や出来事があり、ということですね。高村さんはこれからも5年 10年と調査・研究を続けていく中で、またどんどん立場や扱いが変わっていくのでしょうね。さて、今年の夏の家族でのフィールド行きは楽しみにされていると思いますが、どんなことを楽しみにされていますか。

はい、とても楽しみです。私の調査対象の女の子たちはすでに母親になってる子が数人いて、もうお父さんになってる子もいて。そういう調査対象の子どもたちと自分の子どもを会わせるとどういう会話ができるかなっていうのを楽しみにしてます。また、村のみんなが私の子どもを見てどういう反応するのか、とかいうのも楽しみです。

――――研究者が子どもを持ったことで、もちろん大変なこともありながら、さらに深まる地域研究の世界があるんだなと、今日の高村さんの話を聞いて実感しました。では最後になりますが、ご自分の今後の将来、お子さんの将来に思うことがあれば教えてください。

そうですね。まずは博士論文です。それを書いて修了するっていうことが第一の目標 です。その後ですが、今私はほかの大学院生から、研究者になろうと思っているけれども結婚のタイミングや子どもをもつタイミングを悩んでいるっていう相談をけっこう受けるんですね。なので、私も手探りですけど、子どもを連れてフィールドワークに行ったりとかいろいろな経験をすることで、未来の女性研究者が悩むところを経験者として、ロールモデルとして、いろいろ伝えられるようになればいいなっていうのを思っています。自分の子どもたちに関してはアフリカとか研究者じゃなくて、のびのびと生きていてくれたらいい、育っていってくれたらいいかなと思います。ただ、私たち夫婦はアフリカが大好きなので、今回の渡航でアフリカを嫌いにならないで欲しいなあ、と。好きになってとは言わないけれども、嫌いにはならないで欲しいなというところです。

――――お子さんたちはフィールドの人たちにとても可愛がられるでしょうから、嫌いになることはないのではないでしょうか。

そうですね。

――――今日は高村さんに、地域研究の魅力について改めて教えてもらった気がします。高村さんの今後のますますの活躍を願っています。本日はどうもありがとうございました。

ありがとうございました。

2024年3月インタビュー