臨地教育研究による実践的地域研究者の養成

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科

セッション(午前の部)の報告

文責:嶋村鉄也

午前中のセッションの発表者は自然科学的手法をベースにそれぞれの地域における問題を解決しようとしている若手研究者お二人をお迎えして、発表が行われました。手法が共通しているお二人ですが、そのスタンスやフィールドに行く経緯には大きな違いがありました。

東城文柄さんは、バングラデシュでフィールドワークをはじめた当初、農業システム・農村開発・環境問題を融合させた研究を行おうとお考えでした。しかし、東城さんがフィールドで目の当たりにしたものは、環境保護の名の下に蹂躙される、地域住民の土地所有権や居住権でした。東城さんはそこで、参与観察を中心としたフィールドワークから導き出された仮説をもとに、衛星画像処理を駆使して、政府が大義名分としている環境保護というものが、事実の誤認に基づいて行われているということを明確に指摘します。

東城文柄 「バングラデシュ・モドゥプール森林における自然環境保護と地域住民の対立の現状の事例」

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この発表を通じて東城さんは、現場を通じて、自分が解決したいこと、関わりたいと思ったことに対して、自分のバックグラウンドとは多少異なるスキルが要求されようが、何でも引き受けてやるという強い意志と情熱を感じさせてくれました。今後、東城さんが導き出したバングラデシュ政府の事実誤認が住民のためにどのような形で適用されていくのか、注目に値する発表でした。

甲山治さんは水文学をバックグラウンドとする研究者です。現在甲山さんは山梨大学の21COEプログラム「アジアモンスーン域流域総合水管理研究教育」の研究員として、アラル海の縮小を含む様々な問題に対処しようとなされております。このプロジェクトでは農学的・工学的視点から個人レベルではなしえない、水資源に関わる問題を幅広くあつかっています。

甲山治 「中央アジア・アラル海流域における水資源変動と人々の生活」

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この発表を通じて甲山さんは、技術的側面にかかわる問題を中心に取り扱っておりました。午後のセッションは、地元の人々のニーズをどう引き出すのか、ということに関してもともとさまざまに議論がなされてきた農村開発研究の分野の報告でした。これとは対照的に、午前のセッションでご発表のおふたりは、それぞれ研究者として独自に対象地域のニーズを見いだして、あるいはニーズと出会ってきた経緯をお持ちの、ユニークな研究だったといえます。

甲山さんは、自分達のチームにできることを積極的に提示して、その中から地元の人々が選んだものを、提供していくというスタンスで研究をおこなっていました。一方で、東城さんは地元の人々のニーズに応えるために、自分の研究テーマを大きく変化させてきました。このように、地元のニーズというものを重視するという点は発表者全員に共通しておりましたが、それに対するするアプローチ方法は多様であるということを示してくれました。

作成日: 2007年3月29日 | 作成者: 事務局