ASAFAS 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
インターネット連続講座
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  第十一回 「東南アジアという世界」
東南アジア地域研究専攻 坪内良博(地域進化論講座)     tsubouchi@asafas.kyoto-u.ac.jp
 
 

3.小人口世界


 かつての東南アジアには土地が十分にあった。日本の人口密度をかりに1平方キロメートルあたり340人としよう。江戸時代には日本も人口が少なくて人口密度は80人程度であ ったが(北海道を含む)、東南アジアでは、その時点(1850年)で人口密度は10人程度に過ぎず、1975年頃にようやく日本の江戸時代並みの数値に達するのである。ジャワ島や紅河デルタの人口密度は、今日例外的に高く、たとえば今日のジャワ島では926人とまさに 驚異的な数値を示すのだが、100年前のジャワ島の人口は、222人、そして統計らしい統計が存在する1815年には、36人程度、すなわち当時の日本の半分という数値が残されているのである。もっとも当時の日本の半分というのは過少見積もりで、当時の日本並みと見做すほうがよいかもしれない。火山の齎らす豊かな土壌と水、耕地化の可能性が日本よりもずっと高く、年中高温のジャワ島でこの状態だったのである。インドネシアのカリマンタン(ボルネオ島)では、人口密度は今日でも20人程度にすぎない。
 東南アジアの人口がなぜ少なかったかという問いに答えるには、十分に割く時間がない。マラリア蚊や他の微生物を含む人間の増殖を妨げる要因が多かったこともその一要因であろう。いずれにせよ、このような小人口が、東南アジアの形成にとって重要な役割を果たしたことは十分に考えられる。生産力の乏しい砂漠や氷原で人口が少ないのとは意味が違う、豊穣のなかの小人口なのである。

Contents

1、アジアの中の東南アジア
  多様な側面

  異質の要素

2、類似のなかの異質
2-1、都市の構造

   多民族的構造
2-2、移動性
   出稼ぎ
   焼畑

3、小人口世界

4、東南アジア型社会
   農民と移動
   異質への親和性

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ダヤ人の集落にて