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第1回(通算第26回)
「フィールド医学の提唱-老年医学研究を中心として-」
松林公蔵:東南アジア地域論講座

Contents

1.医学研究における生態学的視点

2.医学研究における細分化と統合

3.時間軸にそったフィールド医学(老化の時代的変遷)

4.垂直地理学的フィールド医学(高所医学)

5.水平地理学的フィールド医学(地域研究としての医学)

4.垂直地理学的フィールド医学(高所医学)

 この地球上において人は、島嶼部や平地だけでなく、山岳地帯にも居住している。とりわけ、ヒマラヤ地域に代表される標高5千メートルでは、大気中の酸素濃度は平地の約1/2となり、ヒマラヤ8千メートルでは1/3となる。このような高所にも多くの住民が生活しており、8千メートルをこえる超高所にも人は達することが可能であることが証明されている。では、このような高所低酸素環境下で、人の生理はどのように変化するのか?呼吸機能は、循環機能は、そして脳の機能は・・・?また累代にわたって高所に住み続ける高所住民の老化のありさまにはどのような影響が生じているのか。チベット高所住民には、肥満は少なく、また加齢現象がはやいことが明らかになりつつある。
人間生存のひとつの極限状態である高所、このような領域における医学的諸問題を科学的に追及する既存の医学分野はなく、これもフィールド医学のひとつの課題と考えられる。

酸素濃度が平地の1/3となる標高8千メートルにのぼる私たちの身体のなかではどのような変化が起きているのか。また、累代にわたって、標高4千メートルに居住する高所住民は、私たちとどのように身体の機能が異なるのか。高所生理学にはまだまだなぞが多い。