ASAFAS 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
インターネット連続講座
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第十三回 「〈多神教〉的イスラームと〈一神教〉的イスラーム」

東南アジア地域研究専攻(南・西アジア地域研究)
東長靖(連環地域論講座)tonaga@asafas.kyoto-u.ac.jp

 
 

6.「正しい」イスラーム
6-2 国王も聖者信仰

 アッラー以外のものを拝むことにもつながりかねない聖者信仰は、「多神教」的だとして批判されることがあったとすでに述べた。今日では、「一神教」的イスラームの伸張が著しいが、しかしその潮流はイスラーム世界全土を覆っているわけではない。
 モロッコにおいて、国王は預言者ムハンマドの子孫としてのカリスマ性を主張し、自ら聖者として振る舞うと同時に、聖者の柩にかける布を寄進することにもためらいを見せない。現代モロッコにおいて、聖者信仰は、「正しい」イスラームの一部なのであった。
 このように、「正しい」イスラームなるものは、常に伸び縮みする概念(従って言説)であると知ること、それゆえに、各地の民衆的慣行などを語る際に、「一神教」的なイスラームを「正統」イスラームと同定して、それとの対比でのみ論じないこと、が肝要であろう。

聖者の柩にかけられた布・先端部(三角形の部分)には、

「信徒たちの長、ハサン2世猊下の命によって」と書かれている

(モロッコ・マラケシュ)

Contents


1.雪をかぶるモスク

2.知の伝統とイスラーム世界

3.アッサラーム・ナヴルーズ

4.「多神教」的イスラーム

4-1 アッラーを超える存在?

4-2 誰に願いを?

5.「一神教」的イスラーム

5-1 男女隔離

5-2 メッカは「イスラームのメッカ」か?

6.「正しい」イスラーム

6-1 偶像禁止

6-2 国王も聖者信仰

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