ASAFAS 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
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第十三回 「〈多神教〉的イスラームと〈一神教〉的イスラーム」

東南アジア地域研究専攻(南・西アジア地域研究)
東長靖(連環地域論講座)tonaga@asafas.kyoto-u.ac.jp

 
 

4.「多神教」的イスラーム
4-1 アッラーを超える存在?

 ふつうイスラームは「一神教」であると言われる。アッラーという至高・唯一・絶対なる神をのみ崇拝する宗教。しかし、イスラームの中には、同時代人から「多神教」ではないかと非難される思想・行動が、常に存在していた。同じ「一神教」であるキリスト教にも同様の現象は見ることができる。
 写真は、12〜13世紀の神秘主義哲学者イブン・アラビーの廟。彼の気宇広大な神秘主義思想は、一般に「存在一性論」と呼ばれる。世界は、名付けることすらできない唯一絶対なる何ものかの顕現によってのみ、成立する。この顕現の過程において、アッラーを超える存在が想定される。アッラーと名付けたとたんに、それはある種の規定を受けてしまう。真の絶対者は、一切の規定を免れた存在であるべきだ。
 この思想は、アッラーを至高とする「一神教」の立場から、しばしば非難を受けた。しかし、結局イブン・アラビーは「異端」とされることなく、むしろ尊崇され、イスラームの知の伝統に大きな影響を与え続けてきている。

イブン・アラビー廟内陣(シリア・ダマスクス)

Contents


1.雪をかぶるモスク

2.知の伝統とイスラーム世界

3.アッサラーム・ナヴルーズ

4.「多神教」的イスラーム

4-1 アッラーを超える存在?

4-2 誰に願いを?

5.「一神教」的イスラーム

5-1 男女隔離

5-2 メッカは「イスラームのメッカ」か?

6.「正しい」イスラーム

6-1 偶像禁止

6-2 国王も聖者信仰

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