ASAFAS 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
インターネット連続講座
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第十三回 「〈多神教〉的イスラームと〈一神教〉的イスラーム」

東南アジア地域研究専攻(南・西アジア地域研究)
東長靖(連環地域論講座)tonaga@asafas.kyoto-u.ac.jp

 
 

5.「一神教」的イスラーム
5-2 メッカは「イスラームのメッカ」か?

 イスラームには、常に収斂と拡散の二つのベクトルが働いてきた。この両者のせめぎ合い、ダイナミズムの中にイスラームの歴史が内包される。前者のベクトルはイスラームの統一性、後者のベクトルはイスラームの多様性に結びつく。
 メッカこそは、収斂・統一性の象徴である。カアバ神殿を擁するイスラーム第一の聖地。ムハンマドが生まれ、その前半生を過ごした町。今日でも1日5回の礼拝の方向はメッカに決まっているし、年に1度の巡礼には、何百万というムスリムがこの町に押し寄せる。
 しかし、イスラームのごく初期を別にすれば、メッカが、現実のイスラーム世界において、真の意味で中心となったのは、近現代のことと考えてよいであろう。
 より中心的であるか、周縁的であるかの差はあるにせよ、イスラームの諸都市はネットワークで結びついていた。メッカのみが、唯一の中心となる一極集中構造は、近現代の産物であろう。メッカは、近代に至ってはじめて、「イスラームのメッカ」となったのだと考えることができる。

メッカのカアバ神殿(サウジアラビア)

Contents


1.雪をかぶるモスク

2.知の伝統とイスラーム世界

3.アッサラーム・ナヴルーズ

4.「多神教」的イスラーム

4-1 アッラーを超える存在?

4-2 誰に願いを?

5.「一神教」的イスラーム

5-1 男女隔離

5-2 メッカは「イスラームのメッカ」か?

6.「正しい」イスラーム

6-1 偶像禁止

6-2 国王も聖者信仰

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