<< 東南アジア地域研究専攻 2000年度目次へ戻る

2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

  第十六回 「食糧生産と環境保全」
 
 

Contents

1.MAPNETプロジェクト

2.地域研究のアプローチ

3.東北タイとの関わり

4.ムラ研究の楽しさともどかしさ

5.「地べたを這いずり回る」と「鳥瞰する」

6.大学院生との共同研究

7.数値データで地域を語る

8.地域と地球

  

7.数値データで地域を語る

 そろそろMAPNETプロジェクトの成果を披露しなければなりません。もうこの研究に着手してから5年が経過しています。下の図は東北タイ全域の水稲の平均達成可能収量を示しています。達成可能収量とは、与えられた気温、日射量と水条件で、考えうる限りの収量増加策を講じたときに達成できる収量です。言い換えると、農家がいくらがんばって施肥をしたりしてもこの収量を越えることはできない、といういわば限界的な収量です。品種は東北タイで一般的な高品質米ホムマリ105を想定しています。この図の1メッシュは約5km四方です。東北タイは約16万km2と日本全土の約半分ですので、約6,000のメッシュに分割されます。その一つ一つのメッシュに、気温、日射量、降水量などの気象データ、土壌や地形などの土地データを割り当て、達成可能収量を推定する作物モデルを走らせています。モデルは、大学院生たちによる作物生育や土壌水分動態の定期的なモニタリング結果によって検証されています。モニタリング圃場の数は、のべ800箇所以上です。この図は、いわば農学的な評価の一つの到達点です。その過程ではまだ生産力を規定する「人間臭い」側面は考慮されていません。次のステップは、この図と実際の収量のギャップを求めることです。このギャップこそ「人間臭い」側面が詰まっているに違いない、と期待しているのです。その分析はもうすぐできるはずです。とはいえ、この図でさえ、眺めていると、東北タイの居住史やローカルなネットワークの形成などが浮かび上がってきそうです。農業生産力が社会形成と密接に結びついてきたことを示しているのでしょう。

1979年から1998年までの20年間の水稲の平均達成可能収量。この図に関してもまだ最終版ではありません。修正作業が続いています。