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2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

  第二十三回 「クアラルンプルのサマ人:都市就労のマレーシア的文脈」
 
 

Contents

1.普遍現象の個別文脈

2.海民

3.マレーシアのサマ人

4.クアラルンプルにおける就労状況

5.マレーシアという文脈

  

3.マレーシアのサマ人

 これまで私は、フィリピン、マレーシア、インドネシアそれぞれのサマ人の生活をみてきたが、マレーシアだけ状況が違っていた。フィリピンとインドネシアにおいてサマ人は、「海民」という従来のイメージを引き継いだ生活を今も営んでいる。大半が漁民である。ところが、マレーシア・サバ州のサマ人の場合、漁業等に従事する人は少数派となり、公務員や各種の都市賃金労働に従事する人が多くなっている。さらに近年では、半島部における都市就労が顕著になりつつある。1963年にサバ(北ボルネオ)はマレーシア連邦の1州として独立したが、サバとマレー半島部がそれ以前から社会・文化的に連続していたわけではない。ただ、イギリスの植民地であったという歴史経験を除いて。サマ人にとっても同様で、マレー半島は従来はかれらの生活圏ではなかった。しかし1963年以降、マレーシアという国家の枠組みに括られてから、かれらの物理的な生活圏自体がマレーシアという国家の枠組みに近似するようになってきた。それを示すのが半島部への就労である。就労地はクアラルンプルやジョホール、ペナンなどの主に都市部である。こう書くと、東南アジア各国で生じている都市、特に首都圏のいわゆるインフォーマルセクターないし都市雑業への出稼ぎが頭に浮かぶかもしれない。そうした事例もなくはないが、サマ人の都市就労の多くは、そうした出稼ぎとは異なる。

(写真3.刺網漁をするサマ人/ フィリピン・スルー諸島)