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2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

  第二十三回 「クアラルンプルのサマ人:都市就労のマレーシア的文脈」
 
 

Contents

1.普遍現象の個別文脈

2.海民

3.マレーシアのサマ人

4.クアラルンプルにおける就労状況

5.マレーシアという文脈

  

4.クアラルンプルにおける就労状況

 私が調査をおこなったサバ州東海岸のセンポルナに住むアタップ氏の家族の事例から、職種、居住地、社会関係の3点について、その差異を示してみよう(名前は仮名、年齢は2000年現在で推定も含む)。まず職種。最初に半島に渡ったのはアタップ氏の妹の長男である。1989年からクアラルンプルで警備員をしている。次がアタップ氏の長女(27歳)である。1991年からクアラルンプルの時計店に数年勤務した後、現在まで7年間クアラルンプル国際空港(98年までスバン、以降はスパン)の免税店に勤めている。数年遅れて長男(30歳)も半島で働くようになった。はじめはランカウィのホテルに、現在は、クアラルンプルにある五つ星国際ホテルの営業部に勤めている。97年には、次女(25歳)がクアラルンプルに渡り、長女とともに国際空港免税店に勤めるようになった。98年にはアタップ氏の妹の次男(22歳)と、妻の兄(48歳)がクアラルンプルで警備員の仕事に就いた。その数ヶ月後からは、アタップ氏の3女(19歳)と、妹の次女(18歳)が、99年からはアタップ氏の次男(21歳)と、弟の長男(19歳)が、ヌグリ・スンビラン州の日系電子工場で働き始めた。2000年からは、アタップ氏の弟(45歳)がクアラルンプル国際空港で清掃員として働いている。居住地についてみると、長女、次女、3女、次男、アタップ氏の弟は、国際空港近くの新興住宅地に3LDKの住宅を賃貸して共同生活をしている。他は、各自でアパートを借りるか、寮に住んでいる。それぞれの居住地はばらばらである。最後に結婚に関する社会関係。妹の長男は、98年にマラカ出身の銀行員女性と結婚した。他に長女と長男、妹の次男が婚約している。相手はすべて半島出身のマレー人である。まとめてみると、職の内容でいえば、1)フォーマルで定期的に給料が支払われる職についている。居住地では、2)スクウォッターのような非合法な居住地にではなく、寮や一般の賃貸住宅に住んでいる。出身地や「民族」でまとまって住むことはない。そして社会関係では、3)故郷に帰ることを必ずしも前提とせず、男女に関わらず就労地でそこの人と結婚し、定住する傾向がみられるのである。つまりサマ人の半島での就労は、しばしば不法性を特徴とする都市への出稼ぎではなく、都市での「通常の就労」に過ぎないわけだ。

(写真4.マレーシア・クアラルンプル中心部)