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第6回(通算第31回)
「インドネシアはなぜ政治的に不安定なのか」
白石隆:東南アジア地域論講座

Contents

なにが問題なのか

1、なぜ行き詰まったのか−政治制度

2、なぜ行き詰まったのか−政権の運営

3、なぜ行き詰まったのか−政治的妥協と非常事態宣言の問題

4、新政権は安定するのか

5、なぜ政治社会秩序は不安定なのか

6、なぜ家族主義システムは崩壊したのか

7、インドネシアの危機をどう考えるか

なぜ行き詰まったのか−政治制度


 なぜアブドゥルラフマン・ワヒッド政権は二年たらずで行き詰まったのか。
 その基本的理由は政治制度にある。
 インドネシアの政治制度は大統領制である。しかし、これはアメリカの大統領制とは違う。アメリカの政治制度の基本には「三権分立」がある。これに対し、インドネシアの政治制度の基本的考え方は「三権分配」、つまり、インドネシア共和国のすべての権力は国民協議会(MPR)に集中され、国民協議会が行政、立法、司法の三権を政府(大統領)、国会(DPR)、最高裁判所に分配する、というものである。したがって、国民協議会は大統領の上位にあり、国民協議会はいつでも臨時総会を召集し、大統領を解任することができる。
 スハルト時代にはこれで政権は安定した。国民協議会議員の半分が大統領の任命で、残りの半分も八割までが大統領支持派で固められ、大統領の意思が国民協議会の意志となったからである。
 ところがハビビ時代、法律が改正され、国民協議会は国会議員五〇〇名と地方代表・職能代表議員二〇〇名で構成されることになった。また大統領は地方代表・職能代表議員を任命できなくなった。この結果、大統領の意思ではなく、国会の意思が国民協議会の意思となった。また議会における政党勢力の配置は、一九九九年六月の総選挙の結果、国軍・警察代表議員三八名を別として、メガワティを総裁とする民主党闘争派が一五三、スハルト時代の与党、ゴルカル党が一二〇、アミン・ライスを事実上の指導者とするイスラム諸政党(開発統一党五八、国民信託党三四、月星党一三、正義党七)が一一二、アブドゥルラフマン・ワヒッドを顧問とする民族覚醒党が五一議席となった。