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第6回(通算第31回)
「インドネシアはなぜ政治的に不安定なのか」
白石隆:東南アジア地域論講座

Contents

なにが問題なのか

1、なぜ行き詰まったのか−政治制度

2、なぜ行き詰まったのか−政権の運営

3、なぜ行き詰まったのか−政治的妥協と非常事態宣言の問題

4、新政権は安定するのか

5、なぜ政治社会秩序は不安定なのか

6、なぜ家族主義システムは崩壊したのか

7、インドネシアの危機をどう考えるか

2なぜ行き詰まったのか−政権の運営


 大統領が国会も国民協議会も支配できない、そういう条件下、大統領が国会と安定した関係を作り上げるには、連立政権の編成によって国会における安定多数を確保するしかない。それが一九九九年一〇月に成立した第一次内閣、全与党体制の「国民統一」内閣の趣旨だった。しかし、これはうまくいかなかった。大統領が大臣を信頼せず、内閣がひとつのまとまったチームとしてまったく機能しなかったからである。
 そこで昨年8月に内閣改造が行われ、「茶坊主」内閣と揶揄される第二次内閣が作られた。その狙いは、大統領の信任を得た実務内閣を編成し、経済危機克服、国家統一維持に実績を挙げることで政権の浮揚を計る、ことにあった。この内閣はそれなりの実績を挙げた。しかし、これは政権の安定にはまったく役に立たなかった。この内閣の成立によって大統領の政党、民族覚醒党以外のすべてのイスラム政党、ゴルカル党、民主党闘争派の多数派が野党化し、ことあるごとに大統領追い落としを画策するようになった。総額七億円ほどの大統領の不正資金疑惑がその口実を提供した。これはインドネシアにおける疑獄の規模から言えばそれほど大きなものではない。たとえばスハルト時代末期の中央銀行の民間銀行融資においてはいまでも五一兆ルピア(5100億円)が使途不明となっている。しかし、野党は大統領追い落としを目的としてこの問題を取り上げ、この一月、国会で第一回目の大統領問責決議が採択され、これが今回の危機の発端となった。