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第6回(通算第31回)
「インドネシアはなぜ政治的に不安定なのか」
白石隆:東南アジア地域論講座

Contents

なにが問題なのか

1、なぜ行き詰まったのか−政治制度

2、なぜ行き詰まったのか−政権の運営

3、なぜ行き詰まったのか−政治的妥協と非常事態宣言の問題

4、新政権は安定するのか

5、なぜ政治社会秩序は不安定なのか

6、なぜ家族主義システムは崩壊したのか

7、インドネシアの危機をどう考えるか

5なぜ政治社会秩序は不安定なのか


 したがって、メガワティ政権は現政権よりはるかに安定するだろう。しかし、このことは、メガワティ政権の下でインドネシアの大きな政治社会秩序が安定するということではない。
 なぜか。
 ごく簡単に言えば、政治社会秩序の基礎にある資源再配分メカニズムが崩壊しているからである。
 インドネシア社会の基本にはごく素朴な「助け合い」の観念、家族主義の精神がある。インドネシアはひとつの大家族である、われわれはひとつの家族として、親子兄弟姉妹のように助け合わなければならない、というのがそれである。
 インドネシアの家族主義システムはこの上につくられた。たとえばわたしが市長であるとする。わたしは大家族(=A市)の親父(=市長)として財団を設立し、昵懇の実業家と合弁事業を行い、その揚がりで子供(=部下)の面倒をみる。これが基本である。スハルト時代にはこの家族主義の精神と慣行にしたがって、上は中央政府官庁から下は市役所、地方の警察署、税務署まで、実に多くの財団が設立され、その事業活動によって上司(=親父)が部下(=子供)の裏給与、教育費、医療費、住宅費などの面倒をみる体制がつくられた。