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2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

 

第十八回 「経済発展の要因としての制度」

吉原 久仁夫   東南アジア地域研究専攻(東南アジア地域論講座)
 e-mail: yoshihara@cseas.kyoto-u.ac.jp

 
 

Contents

1.制度が経済パフォーマンスを決める

2.制度とはなにか

3.制度の経済パフォーマンスへの影響ルート

4.経済的自由とルールの執行能力

5.なにが制度を決めるのか:
 タイとフィリピンにおける自由度の比較

6.なにが制度を決めるのか:
 タイとフィリピンにおけるルール執行能力の比較

7.私の研究がめざすもの

  

1.制度が経済パフォーマンスを決める

 経済発展の問題を研究する者にとって、最近の最も大きな理論的進歩は新制度派経済学の成立であろう。新制度派経済学者の中には、企業のガバナンス(統治)を研究するグループがいて、彼らの書いたものは直接参考にならない。発展論の観点からすると、特に注目しなければならないのはダグラス・ノースを中心とするグループの書いたものである。ノースは1990年に出版した "Institutions, Institutional Change, and Economic Performance" の中で、経済発展をした国は、「取引費用」を下げるように制度を改善してきたからだと主張している。取引費用というのは、取引にかかる費用で、輸送費、宣伝費、また信用取引で債権を回収するための費用などで、この費用が高い限り、取引量は増えず、そのため生産も増えないと主張する。

 ノースのように取引費用だけで経済パフォーマンスを説明するのは、必ずしも説得力がない。制度は取引費用以外に、インセンティブや経済的自由に影響を与える。従って、これら全体に制度がどのような影響を与えているかを考えなければならない。つまり、ある国のこれまでの経済発展を説明する場合、制度が投資等の経済活動にどのような影響を与えてきたかを検討しなければならないし、また将来性についても、現在の制度がどうなっており、それがどう変わりそうか、変わりそうにないかが、重要な判断基準にならなければならない。

シンガポールの繁華街、オーチャード・ロードの夜景