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2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

  第十八回 「経済発展の要因としての制度」
 
 

Contents

1.制度が経済パフォーマンスを決める

2.制度とはなにか

3.制度の経済パフォーマンスへの影響ルート

4.経済的自由とルールの執行能力

5.なにが制度を決めるのか:
 タイとフィリピンにおける自由度の比較

6.なにが制度を決めるのか:
 タイとフィリピンにおけるルール執行能力の比較

7.私の研究がめざすもの

  

3.制度の経済パフォーマンスへの影響のルート

 第1図に、制度がどのようなルートを通じて、国の経済パフォーマンスに影響を与えるかを示した。

図1  制度の経済パフォーマンスへの影響のルート


 第一の影響は経済活動に対する報酬と制裁に関してルールがどのようになっているかである。報酬に関するルールで特に問題になるのは、所得税がどのようになっているかである。税が高すぎると、努力なりリスク負担をやめておこうかいう気になる人が多くなって、経済に活力がなくなる。制裁に関しては、努力しないか市場のニーズにあった経済行動をしなければ、報酬を少なくするか、市場からの退去を命ずるルールが、実際どうなっているかが問題である。報酬が少なくても、社会保障が充実していれば、努力を怠る人が増えて、生産性は停滞するだろう。

 第二の影響は経済行為がどの程度自由かということである。例えば、日本は規制の多い国だと言われる。規制が多ければ競争が抑制され、価格が上がり質が下がる。東京は世界で最も生活費の高い都市だが、それは規制が多いためサービス価格が高いからである。高い銀行の手数料、タクシー料金、航空運賃、電話料金などは規制がもたらしたものである。

 多くの発展途上国では日本以上に多くの規制がある。一つは平等主義からくる規制であるが、もう一つは国内資本と外国資本のバランス、また民族間のバランスを保つための規制である。両方とも平等主義からくるものだと言えなくはないが、前者は経済弱者の保護を主たる目的としたものに対し、後者はナショナリズムと関係するもので、経済の主たる担い手は国内資本が望ましく、その中でも多数民族に属する企業家が望ましいとするものである。

 第三の影響は財産権の設定と保護に関してのルールがどのようになっているかである。前述した営利誘拐がどの程度難しいのか、あるいは易しいのかということは、財産権がどの程度保護されているかと関係する。また、テロ行為の取り締まりがどうなっているかも、財産権保護に関する制度である。最近の経済危機で問題になった破産法の問題や企業の会計報告なども、財産権保護に関係する。

 法律には行為を禁じたり、命じたりするものがあり、それが財産権との関係で取り上げられがちであるが、法律のもう一つの重要な役割は「認知」である。財産権と直接関係するものでは所有権の設定がそれにあたる。特に問題になるのは、土地の所有権で、これには土地の測量、その区分、所有者の確定、土地台帳への記載が必要で、土地の売買を促進するためには、さらに土地台帳の公開ということが必要である。発展途上国では、所有権が設定されていない土地が多く、そのため土地取引の費用が高くなっていることが多い。