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第9回(通算第34回)
「イスラームの制度化と正統性観の変化:マレーシア、サバ州の事例」
長津一史:地域進化論講座

Contents

1.はじめに

2.マレーシアにおけるイスラームと国家

3.イスラームの制度化(1)行政

4.イスラームの制度化(2)教育

5.センポルナ郡におけるイスラームの正統性観

6.知的権威の移行:スルーからマレーへ

7.公的機関という権威

8.制度化とムスリム社会のダイナミズム

はじめに


この講座では、マレーシアのサバ州におけるイスラームの制度化の展開と、その結果生じたイスラームに関する正統性観−何が、誰が「正しい」イスラームを伝えていると考えるか−の変化を、同州東海岸のセンポルナ地方の事例をもとに簡潔に描写してみたい。
 東南アジアでは、イスラームは最大の信者を擁する宗教である。ムスリム(イスラームの信仰者)人口は、東南アジアの総人口の4割を越すといわれている。特に島嶼部にムスリム人口は多い。総人口にしめるムスリム人口の割合は、インドネシアでは9割弱、マレーシアでは5割強となっている。
 1970年代以降、イスラーム復興運動が西アジアをはじめとするイスラーム地域で注目をあつめるようになった。イスラーム復興運動とは、日常生活をよりイスラーム的なかたち、つまりクルアーン(コーラン)の教えに即したものにしようとする一般民衆の意識改革から、自国政府に対しイスラーム法シャリーアを適用するよう求める政治運動までを含む幅広い現象である。イスラーム復興の流れは東南アジアにもおよび、マレーシアやインドネシアなどにおいて様々なイスラーム復興運動が生じた。これらの運動は一般にダクワー(伝道、布教)と称される。


マレーシアとサバ州