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第9回(通算第34回)
「イスラームの制度化と正統性観の変化:マレーシア、サバ州の事例」
長津一史:地域進化論講座

Contents

1.はじめに

2.マレーシアにおけるイスラームと国家

3.イスラームの制度化(1)行政

4.イスラームの制度化(2)教育

5.センポルナ郡におけるイスラームの正統性観

6.知的権威の移行:スルーからマレーへ

7.公的機関という権威

8.制度化とムスリム社会のダイナミズム

公的機関という権威


 次に行政である。MUIS、そしてJHAEINSは、センポルナ郡にもその支局を設置した。この支局を通じてイスラーム行政は、村レベルにまで伝達されるようになる。先述したようなムスリムの生活の諸領域は、かつては村ごとでゆるやかに自己管理されているか、あるいはスルー出身の知識人に指導されていた。それが一元的にこの公的機関の管理下におかれるようになったのである。たとえば、イマムなどの村レベルのイスラーム指導者は、以前は村々で独自に決められていた。また、そのイマムが「正しい」指導者であるか、そうでないかを判断するのは、スルー出身の知識人であった。しかし、1976年以降はMUISの支局が郡と村のイマムを任命するようになる。ムスリムの生活の諸事、結婚や離婚、葬儀などは、公認されたイマム(またはそのイマムが認めた者)が執行しなければならないと定められた。このようにイスラームの実践にかかる権威は、公的機関を通じて公認イマムに付与されることになったのだ。


村のモスクで礼拝を率いるイマム