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第9回(通算第34回)
「イスラームの制度化と正統性観の変化:マレーシア、サバ州の事例」
長津一史:地域進化論講座

Contents

1.はじめに

2.マレーシアにおけるイスラームと国家

3.イスラームの制度化(1)行政

4.イスラームの制度化(2)教育

5.センポルナ郡におけるイスラームの正統性観

6.知的権威の移行:スルーからマレーへ

7.公的機関という権威

8.制度化とムスリム社会のダイナミズム

マレーシアにおけるイスラームと国家


 東南アジアにおけるダクワー運動はしかし、これまでのところかなりの程度国家の諸制度にとりこまれ、国家枠のなかに収斂させられてきたようにみえる。現在、東南アジアのイスラームを考えうえで鍵となっているのは、それに対する国家の管理や制度の問題である。
このことが特に感じられるのがマレーシアである。
マレーシアでは、政治的な優位集団であるマレー人にとってイスラームは常にイデオロギーの中枢に位置してきた。そのため、政府は政策的にイスラーム化を推進することによって、みずからの正統性を提示せざるをえなかった。イスラーム復興運動の潮流をうけて、マレーシア政府は、一方でイスラームを重視する政策をとりながら、他方でイスラームを制度化していくことにより、ムスリム住民を管理、統制する方向にすすんだ。大枠でみれば、マレーシアでは政府みずからが官製のダクワーに積極的に着手し、これまでのところ政府はダクワーを、あるいはイスラームを制度のなかで馴化することに成功しつつある、と考えてよいだろう。そしてここでは、イスラームに関する政策や制度が、人々のイスラームについての考え方やその実践に大きく影響しているのである。その具体的な事例を、マレーシアのサバ州についてみてみよう。まずは、イスラーム行政と教育の展開を概説する。


サバ州立モスク