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第9回(通算第34回)
「イスラームの制度化と正統性観の変化:マレーシア、サバ州の事例」
長津一史:地域進化論講座

Contents

1.はじめに

2.マレーシアにおけるイスラームと国家

3.イスラームの制度化(1)行政

4.イスラームの制度化(2)教育

5.センポルナ郡におけるイスラームの正統性観

6.知的権威の移行:スルーからマレーへ

7.公的機関という権威

8.制度化とムスリム社会のダイナミズム

イスラームの制度化


 マレーシアは異なる歴史的背景をもった2つの地域、半島部と島嶼部に大きく分かれる。島嶼部にはサバ州とサラワク州がある。半島部、島嶼部ともにイギリスの植民地であった。半島部は1957年に独立した(当時はマラヤ)。サバとサラワクは、1963年にマレーシア連邦に加わるかたちで独立した。
独立以前のサバ州では、全ムスリムを統合・組織化するような動き、あるいはイスラーム教育を自前で展開するような動きはわずかでしかなかった。サバ州に統一的なイスラーム組織が出来るのは、独立後、ようやく1969年になってからのことである。ムスリム政治家が中心になって結成した、統一サバ・イスラーム協会USIAがそれである。USIAは主に非ムスリムへの布教に活動の重点をおいていた。
1971年には州首相府の法定機関として、サバ・イスラーム宗教評議会MUISが設置された。これがサバ州最初の公定イスラーム行政機関である。以後このMUISによってイスラーム行政の制度化、州レベルでの中央集権化が進められていった。1996年には、サバ・イスラーム宗教関係局JHEAINSが州首相府に設置された。現在MUISとJHEAINSは機能を分けて並存している。両組織が管理する領域は、イスラーム法廷、イスラーム教育・指導から、地区や村のイスラーム指導者の人事、ムスリム住民の結婚・離婚・相続まで広範囲におよんでいる。両組織は郡(行政区)ごとに支局をもち、この支局がローカルなレベルでの管理を実行している。こうしてサバ州のムスリム住民の生活にかかわる多くの領域が、公的イスラーム機関の管理下におかれるようになったのである。


村のモスク内のアラビア語教室