ASAFAS 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
インターネット連続講座
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  第十回 「儀礼・歴史・アイデンティティ−インド・オリッサのラモチョンディ女神祭祀−」
東南アジア地域研究専攻 田辺明生(連環地域論講座)
 
 

5、ポスト植民地期における
  アイデンティティ形成の文化政治学

 インド独立後は、村人らは参政権を得て、活発な政治活動を行うようになった。これに対しては、「男の仕事」として高い価値が与えられる一方、共同性をこわす「近代的腐敗」としての評価もある。ラモチョンディ女神儀礼についても、「我々の歴史と伝統」としての位置づけと同時に「もう時代遅れ」という声もある。
 現代インドにおいては、政治・経済領域におけるダイナミズムと宗教・儀礼領域における「伝統的」アイデンティティの間に齟齬が生じている状況がある。つまり植民地状況で成立した政治・経済/儀礼・宗教の二分法と、近代/伝統という二分法とが重ね合わされ、制度的にも思想的にも束縛を生んでいるのである。このなかでインドの人々は、自らのあるべき姿を探り直そうとしているようだ。その過程はしばしば摩擦と暴力を伴うものであるが、インドが新たに大きく動いていることは確かである。


「永遠の遊戯(リーラー)にあるといわれるラーダー女神とクリシュナ神。一にして多、多にして一の聖なる原理を象徴する。植民地的二分法を克服する文化的資源となりうるか、それともアイデンティティ・ポリティックスの道具にされてしまうのか」

Contents

1-1、アイデンティティ
   形成の場としての儀礼

1-2、儀礼から何がわかるのか?

2、儀礼の過程
2-1、礼拝と憑依

2-2、女神が太刀をとる
2-3、供犠と軍事行進

3、儀礼の解釈
3-1、象徴体系の視点から

3-2、政治・社会体系の視点から
3-3、歴史ドラマとして

4-1、歴史の中の儀礼
   /儀礼の中の歴史

4-2、演ぜられない植民地経験

5、ポスト植民地期における
    アイデンティティ形成

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