<< 東南アジア地域研究専攻 2000年度目次へ戻る

2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

  第十九回 「AA 研究科をフィールドワークする」
 
 

Contents

1.AA 研究科?

2.経典仏教と実践仏教

3.裸の王様

4.アリとキリギリス

5.昆虫図鑑

6.それぞれのオート・クチュール

7.専攻のこと、講座のこと

8.ドラゴン・クウェスト

9.鏡よ鏡

10.侃々諤々

11.一期一会

  

6.それぞれのオート・クチュール

 院生が入学する最初の学期に待ち受けているのが、地域研究論とアジア・アフリカ地域研究演習という必修科目である。「経典」によれば、オムニバス形式で担当され、「アジア・アフリカ地域研究に関する基礎的な問題と、それらに対するアプローチの方法を学び、それまでの学部教育で身につけた個別ディシプリンから、地域研究へ向けての知の組み替えを図ります」とされている。この2年間、これらの必修科目は、現実に複数の教師によるオムニバス形式で提供されてきた。

 地域研究は、必修科目を履修したから、あるいは数冊の入門書を読んだから、われ感得せり、というわけにはいかない。そもそも、そんな便利は入門書は存在しない。地域の固有性への着目、総合的理解、学際的アプローチ、フィールドワークの重視、これらが地域研究の一般的特徴であることに、おおかたの異論はないだろう。しかし、経典と実践の対比ではないが、地域研究の「経典」理解は同じでも、教師たちの地域研究実践法にはかなりの変異が存在する。オムニバス形式の必修科目で院生が経験することになるのも、この多様な地域研究の実践状況である。そして、農学研究科、経済学研究科、文学研究科などではなく、どうして地域研究研究科に入学したのかの意図と意味を問われることになる。

 最後の問いは、院生によっては、遅かれ早かれ辟易とさせられる問いであるかもしれない。しかし、性急に答えを出す必要はまったくない。たとえ心の片隅においてではあっても、これを問い続けることが大事だ。そして、多様な地域研究の実践のあり方を参考に、いずれは自分の身丈にあった地域研究をデザインし仕立て上げる、いわば独自のオート・クチュールを設立する心意気が肝要だ。フィールドワークとは、教師・学生の別なく、主体的学習過程にほかならない。第三者の目によって整理されておらず、言語表現もされていない「生の現実」がフィールドだとすれば、院生にとって、最初のフィールドワークのフィールドは、アジアやアフリカである必然性はない。教室において黙って口を開けレトロ風味の知識の食事をあてがわれるのを潔しとせず、一見混沌とした必修科目の教室を銘々のフィールドと捉える、そうした主体性を、AA 研究科の学生には期待したい。

バティック(ジャワ更紗)に蝋で模様を描いている女性たち、1900年頃。出典:Indonesia: Images from the Past, Times Editions, Singapore, 1987.