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2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

  第十九回 「AA 研究科をフィールドワークする」
 
 

Contents

1.AA 研究科?

2.経典仏教と実践仏教

3.裸の王様

4.アリとキリギリス

5.昆虫図鑑

6.それぞれのオート・クチュール

7.専攻のこと、講座のこと

8.ドラゴン・クウェスト

9.鏡よ鏡

10.侃々諤々

11.一期一会

  

8.ドラゴン・クウェスト

 お前の地域研究の実践はどんなものだと問われれば、この15年ほどこだわっている村落研究について話すことになる。「村の経験した20世紀」とでも名付けられる継続フィールドワーク、わたしのドラゴン・クウェストである。スマトラに“行きつけの村”がある。1984年以来なるべく毎年、たとえ数日であっても訪問するよう努めている。この2、30年、東南アジアの社会経済変化は激しく、これは村においても痛感させられるところである。そうした変化の諸相を、リアルタイムに近い形で追いかけるとともに、より長い時間軸のなかで、この村、コトダラムが経験した20世紀はどのような時代だったのかを考えてみたい。それは、とりもなおさず、日本の20世紀を考えることにもつながるだろう。

 フィールドワークにおける関心事のひとつは、当然のことながら歴史である。歴史を考えるにあたっては、二つのことを心がけている。ひとつは、歴史の考察は、衣食住などの村人の生活側面のごく卑近で具体的な変化から出発すること、生業活動の変化ならびにそれに付随する生態環境の変化を考察の柱のひとつにすること、そして権力関係、家族関係、心性といったより抽象的な局面の変化は、こうした具体的な変化の理解のうえに積み上げていくこと、である。もうひとつは、村で「みる」ものは、本質的に存在するものとして認識するのではなく、変化の履歴を内包したものとして理解することである。

 フィールドワークにおいてもうひとつ心しているのは、コトダラム村は真空のなかに存在するのではなく、より大きなコンテクストのなかに存在するという認識である。村は何層にも重なる「地域」―クアンタン地方、インドラギリ・ヒリール県、リアウ州、ミナンカバウ文化圏、スマトラ島、インドネシア、マレー世界、東南アジア等々―のなかに位置づけられる。コトダラム村の社会変化を理解するには、村内の変化だけではなく、村とこれら地域との関係史にも注意を払わなければならない。この作業のなかで重視しているのが、交通通信手段の発達、人・モノ・カネ・情報の周流、大きくは国家政策や国際経済の動向、などである。

 歴史と地域、「時間」と「空間」へのこだわり、さらには両者の相互作用へのこだわりが、わたし流の地域研究実践に通底する姿勢といえる。学際性はどうかというと、チーム学際ではなくワン・マン学際である。当然、一人で取り組むことのできる学問分野は限られており、どこかに軸足を定めざるをえない。わたしの場合、それは3本足で、人類学、歴史学、社会心理学ということになる。

クルアーン読誦法のクラスを卒業し、読誦のお披露目をしている少女、コトダラム村にて、1999年。