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2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

  第二十四回 「地域の「履歴」を読む−クミリを例に」
 
 

Contents

1.「空間の履歴」

2.土地利用変化を読む

3.熱帯の油料作物

4.クミリという有用樹種

5.クミリの利用

6.クミリの栽培奨励

7.クミリからみた地域の「履歴」

8.地域の「履歴」を綴る

  

2.土地利用変化を読む

 東南アジア各地での調査旅行の途次、わたしたちはさまざまな景色に出会います。農村部を車で走っていると、いつまでも水田がつづくようなことがあります。また、山あり谷ありで、景色の変化に魅了されるときもあります。しかし、景色をたんに眺めているだけだと、それは次から次へと流れていくだけです。わたしは、そういうとき、いま目の前で見ている景色は、昔から同じようにあったのではない、ということを念頭においてその景色を見るようにしています。わたしのバックグラウンドは農学だったので、農業が営まれている景色を見るとき、とくにそういう意識が働きます。
 このことは、言い換えれば、農業的土地利用の変化を読む、ということになります。眼前の土地利用の様子は、もともといまと同じ状態であったわけではない、いつからかそんなふうになってきたはずだということを考えながら景色を見ているわけです。いまの景色を構成しているさまざまな要素(たとえば、耕地の作物、畑の形や大きさ、集落と耕地の配置、植生などなど)を眺めながら、それらを変形したり削除したりというような作業をしながら、景色を眺めていることになります。
 こういう作業が、実は、ある地域の「履歴」をひもといていく作業の手始めとなります。そして、時間があれば、あるいは長期に滞在すれば、その対象とする地域の「履歴」がさらに詳細にわかってくることになるでしょう。

ラオス北部、ルアンプラバン郊外の盆地の水田と山地斜面の焼畑耕地。稲と関わる暮らしが、地域の景色として眼前に現れる。この土地利用の様子をどう読み解いて地域の「履歴」を語っていくか。これが、フィールドワークの楽しみの一つ。