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2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

  第二十四回 「地域の「履歴」を読む−クミリを例に」
 
 

Contents

1.「空間の履歴」

2.土地利用変化を読む

3.熱帯の油料作物

4.クミリという有用樹種

5.クミリの利用

6.クミリの栽培奨励

7.クミリからみた地域の「履歴」

8.地域の「履歴」を綴る

  

4.クミリという有用樹種

 そういう刻印のあとをたどるために、わたしは、クミリという植物にいま焦点をあてながら、インドネシアで調査をしています。クミリは、インドネシア語(マレー語)の呼称です。和名ではククイノキと命名されていますが、日本にはありません。油脂成分を含んだこの種子が、かつてはロウソクと同じように灯明に使われたことから、英名はcandlenut treeといいます。ちなみに、学名はAleurites moluccana です。トウダイグサ科アブラギリ属の喬木で、二つの種子を含んだ果実が多数ついて、その種子の胚乳部分に油脂が含まれています。

インドネシア、フローレス島のクミリ林。若い葉が白く照り輝くので、遠目からもよく識別できる。

 クミリの実は、インドネシアに行き、インドネシア料理を食べた方なら必ず口にされているはずです。サンバルという辛い調味料にも入っています。また、牛肉を煮詰めたルンダンという料理(パダン料理に欠かせません)や、ココナツミルクを使ったカレー風煮込みのグレーという料理にも入っています。また、サテー(串焼き)のソースにも使われています。独特の風味のある油が調味料として使われるため、食べるときにはその形がわかりませんが、市場へ行けば、かならず売っているので、目にされた方があるかもしれません。

クミリの果実(左)。果実のなかに二つの果房があり、種子二つを含む(中)。この堅い殻に包まれた種子を割り、なかの胚乳部分(右)を取り出す。種子のまま、あるいは胚乳部分だけを乾燥して出荷されるが、多くは殻をとってから出荷する。

 クミリは、マレー半島からインドネシア、メラネシア、そしてオーストラリアや太平洋諸島に広く分布していますが、どちらかというと乾季が明瞭なやや乾燥した地域に分布する植物です。インドネシアでは、アチェ特別州や北スマトラ州、南スラウェシ州、東ヌサトゥンガラ州の比較的山間地で広く植栽されています。湿潤低地のココヤシに対して、乾燥山間地の代表的な油料樹種と言っていいかもしれません。

クミリの種子を割り、胚乳部分を取り出す道具。ロタンでできており、円形の先端部分に種子をおき、石につよく打ち付けて殻を割る。胚乳部分が割れると商品価値が落ちるので、力まかせに割ってはならない。