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2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

  第二十四回 「地域の「履歴」を読む−クミリを例に」
 
 

Contents

1.「空間の履歴」

2.土地利用変化を読む

3.熱帯の油料作物

4.クミリという有用樹種

5.クミリの利用

6.クミリの栽培奨励

7.クミリからみた地域の「履歴」

8.地域の「履歴」を綴る

  

3.熱帯の油料作物

 いま、わたしは、こういう作業を油料作物の栽培を通して行おうとしています。油料作物というのは食料や工業原料となる油脂を産出する作物です。一年生、多年生の作物、そして樹木類など油を産出する作物はたくさんあります。ココヤシやアブラヤシは皆さんよくご存じの油料作物です。これらに代表されるように、熱帯にはたくさんの種類の油料作物(植物)があります。
 人類が油をとるために利用している植物種の約7割は熱帯に分布しています。温帯地域で栽培されるもののなかにも、その栽培の起源地は熱帯であったという作物が少なくありません。とくにヤシ科、アカテツ科、トウダイグサ科、マメ科、ウルシ科などに多数の油脂含有植物があり、これらは、もともと地元の人たちの必要に応じて、食料として、灯油として、そして洗髪用や薬材など多様な用途に利用されてきました。
 ところが、ある種類の作物(植物)の油脂成分への需要が高まると、それが広域に栽培されるようなります。たとえば、ココヤシの油脂が石鹸の原料として先進国で需要が高まったというような例です。そうすると、熱帯各地にココヤシのプランテーションが開かれるようになります。近年のアブラヤシのプランテーション開園も同じ現象です。
 わたしは、そういう変化が農業的土地利用に強く刻印されていることに注目しています。その刻印のあとが地域の「履歴」として現在の土地利用のなかに残っている(あるいは立ち現れている)というふうに考えています。

マレーシア、サバ州のアブラヤシ・プランテーション。古いアブラヤシの間に新たにアブラヤシを植えて、農園の更新をしているところ。見渡す限りの農園が広がるが、この景色は、せいぜい1970年代〜80年代に始まったにすぎない。その前は、熱帯林に被われていた。