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2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

  第二十四回 「地域の「履歴」を読む−クミリを例に」
 
 

Contents

1.「空間の履歴」

2.土地利用変化を読む

3.熱帯の油料作物

4.クミリという有用樹種

5.クミリの利用

6.クミリの栽培奨励

7.クミリからみた地域の「履歴」

8.地域の「履歴」を綴る

  

5.クミリの利用

 クミリは、すでに紹介したような料理素材としてもっともよく利用されます。そのほかにも、さまざまな用途があります。在来の利用法としてもっとも一般的だったのは灯明としての利用です。クミリの種子の堅い殻を割ると油脂に富んだ胚乳部分がでてきます。これが料理等にも使われ、市販されているものです。この胚乳部分をすり鉢等でつぶし、綿やカポックの綿をまぜて練り、それを竹や木の串に固めるように張り付けると、クミリ・ロウソクのできあがりです。電気がくるようになって、いまはすっかり消えてしまいましたが、このロウソクを稲の初穂の祭りにいまも使うというところがあります。
 そのほかに、この実を熱してペースト状にしたものが、切り傷の塗り薬や痛み止めに使われます。まだ確認していませんが、有名なタイガーバームにもクミリが入っているのではないかとにらんでいます(シンガポールにたくさん輸出されています)。また、この油は品質の良い乾性油で、化粧品、ペイント、印刷インクなどの工業原料としても利用されます。種子の堅い殻は燃料や活性炭の原料に、材は燃料や建築材(高級品ではありませんが)にも使われます。そして、樹皮は赤痢の薬にもなるそうです。堅い殻に包まれたままの種子は、子どもの遊びにも使われます。地面のうえに円を描いて、その中にいくつかの種子をおき、外からクミリの種子を投げつけて円の外へ打ち出されたものを手に入れるという遊びです。いまもこの遊びは人気があって、クミリの収穫期には子どもたちだけでなく、ときには大人たちもそれで賭けを楽しむそうです。

 インドネシア料理のレシピを紹介する料理本。オランダ植民地時代に出版(初版1867年)されたKokki Bitjaと、1967年に出版されたMustika Rasaの表紙。クミリを調味料として使うたくさんの料理が紹介されている。おそらく、近代におけるインドネシア料理の料理法の紹介や普及が都市部におけるクミリの需要を高めたものと推察されるが、それを直接示す証拠はまだない。