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第3回(通算第28回)
「パキスタンにおけるNGO活動―宗教と民族がもつ活力を探る―」
子島進:連環地域論講座

Contents

1.カラーコラムの村から

2.宗教センターと社会サービス

3.外からの力をうまく利用する

4.カラーチー

5.イーディー福祉基金

6.慈善事業家=イスラーム聖者?

7.オーランギー・パイロット・プロジェクト

8.まとめ

3外からの力をうまく利用する

 イスマーイール派は、自らの精神的指導者イマームに忠誠を誓うことで知られている。このイマーム―アーガー・ハーンの尊称で知られる―が、実は教育や医療NGOの創設者でもある。つまり、これらの活動に率先して取り組むことは、村人にとって自らの社会生活の向上にとどまらず、宗教的熱情の発露としての様相をも帯びる可能性が高い。
 しかしだからといって、彼らの活動が閉鎖的に行われているわけではない。むしろアーガー・ハーン財団は、自らの活動を「住民参加型」のアプローチと位置付けることによって、外部の力を巧みに利用している。
1990年代半ばの調査当時、アーガー・ハーン系列の学校はおよそ180校。とても自前の財源では、すべての建物をグレードアップすることはできない規模に達していた。しかし子供の数はどんどん増えていく。そのような状況にあって、先の青空教室を含む小学校のいくつかは、新しく立派な校舎を建設するチャンスに恵まれた。現場で労働力を提供したのは、たしかにイスマーイール派を中心とする村人たちだったが、この建設工事のための資金を提供したのは、ほかならぬ日本政府だった(草の根無償援助)。
 そしてまた世界銀行も、アーガー・ハーン財団のプロジェクトを強力に後押ししている。ある日、ある大きな村を訪れていたときのことだが、突然ヘリコプターが舞い降りてくるのが目に留まった。実は乗っていたのは世界銀行の派遣した調査チームで、アーガー・ハーン農村開発支援事業の事務所への訪問だった。これら外部の機関と積極的に連携することによってこそ、彼らの活動にも「お墨付き」が与えられ、それがさらなる資金提供の呼び水となっていくのである。


学校建設事業―ボランティアで
建設に参加する村人たち。

村の世帯を7つに分け、毎日輪番で作業を行う。


村に到着したヘリコプター―世界銀行の
調査チームが疾風のように現れ
やはり疾風のように去っていった。