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第3回(通算第28回)
「パキスタンにおけるNGO活動―宗教と民族がもつ活力を探る―」
子島進:連環地域論講座

Contents

1.カラーコラムの村から

2.宗教センターと社会サービス

3.外からの力をうまく利用する

4.カラーチー

5.イーディー福祉基金

6.慈善事業家=イスラーム聖者?

7.オーランギー・パイロット・プロジェクト

8.まとめ

7オーランギー・パイロット・プロジェクト

 もう1つNGOを紹介したい。オーランギー・パイロット・プロジェクト(OPP)は、カラーチーのオーランギー地区で活動を開始した。このオーランギーは、行政の計画の枠外で、「違法」に民間業者や住民が街づくりを進めたインフォーマル居住区である。現在、100万の人口を擁するにまで「発展」している。しかし違法に作られた町であるため、オーランギーには、電気や水道あるいは下水などの都市インフラが未整備であった。住民との対話の積み重ねから、衛生状況の改善が求められていることを理解したOPPは、住民による下水管の設置を指導した。住民自身が家の前の路地を掘り返し、下水管を敷設していく。そしてそれを連結させていく方法で、巨大な下水ネットワークを構築してしまったのである。住民が行政の領域へ浸透し、その成果をもとに行政との対話を勝ち取っていった事例として知られている。現在のOPPは、オーランギーのみならず、パキスタン各地のスラムで活動するNGO、あるいは自治体からの要請に応えて、住環境改善を中心に全国的なレベルでコンサルタントとしての役割を果たしている。
 初期のOPPの活動に共鳴し、実際の活動を担ったオーランギー住民には、ビハーリーが多かった。バングラデシュ(東パキスタン)から逃れてきた、一般的に教育レベルの高い人たちである。そしてOPPの指導者アフタル・ハミード・ハーンの名声は、かつて東パキスタンのコミラ県で農村開発の手法を編み出した人物として、ビハーリーの間にも知れ渡っていたのである。


ボランティアの高校生や大学生に、
下水道敷設のための
基礎地図作りを指導するOPP職員。
OPP事務所内で撮影。