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第5回(通算第30回)
「民主政治時代の中央・地方関係」
玉田芳史:地域進化論講座

Contents

1.タイの中央・地方関係

2.併呑された地方権力

3.中央集権的な行政

4.学歴エリート:ニムマーンヘーミン一族

5.地元密着型資本:タントラーノン一族

6.官僚と政治家を使うスパー一族

7.首相を出したチンナワット一族

8.遠い地方の時代

地元密着型資本:タントラーノン一族


 そのターリン蔵相が金融自由化に拍車をかけて通貨危機への導火線を準備し、さらに1997年の危機以後再建に傾注している頃、チェンマイの経済も激動に見舞われた。 
 タントラーノン一族はチェンマイの典型的な地元資本といえよう。一族は百貨店を所有・経営していた。1985年から10年間チェンマイ市長を出してもいた。地元では有数の名家であった。しかし、80年代末からのバブル経済時代に首都の百貨店が地方出店を開始し、その第1号店が92年チェンマイに設置されると、タントラーノン一族はまったく太刀打ちできず、わずか数年でバンコク資本に吸収合併されることになった。一族が手広く行っていた事業のうち不動産業は経済危機の直撃を受けた。
 上場企業に地方企業を見出しがたいことに示されるように、ビジネスの世界も行政と同様に首都中心である。小規模店舗や地方資本を保護する法制はなく、チェンマイのように開放的な町ではとりわけ、「大魚が小魚を喰う」という弱肉強食の論理が貫徹しやすい。


■ 5 建設途中のビル

 首都バンコクのあちらこちらに見受けられるように、建設途中で放棄されたビルがチェンマイにもある。写真はタントラーノン一族が建設したマンション用ビルである。道路に面した右手の建物は完成販売されたものの、その裏手(左手)に第二ビルを建設中に経済危機が襲来した。