<< 東南アジア地域研究専攻 2001年度目次へ戻る

第5回(通算第30回)
「民主政治時代の中央・地方関係」
玉田芳史:地域進化論講座

Contents

1.タイの中央・地方関係

2.併呑された地方権力

3.中央集権的な行政

4.学歴エリート:ニムマーンヘーミン一族

5.地元密着型資本:タントラーノン一族

6.官僚と政治家を使うスパー一族

7.首相を出したチンナワット一族

8.遠い地方の時代

遠い地方の時代


 1990年代以後のチェンマイを代表する2名の政治家タックシンとターリンを比較対照すると、いくつか共通点が浮かび上がる。首都で栄達をおさめ、選挙区がチェンマイではなく首都にある(現在は比例区)。チェンマイとの接点は出身地ということだけである。彼らの首相や蔵相への就任を可能にしたのは首都の実業界での成功という勲章である。この意味ではニムマーンヘーミン一族の官界エリート型を踏襲している。チェンマイ人というよりも首都人なのである。
 議会政治の定着は地方実業家に国会進出の扉を開いたといわれることが多い。しかし、そうした議員を束ねているのはタックシンやターリンのような首都の資本家あるいはその代弁者である。地元に基盤をおきつつ、全国区にのし上がった地方資本家の例は寡聞にして聞いたことがない。また、純然たる地方実業家で首相に就任したものはまだおらず、97年憲法はその実現可能性を低下させた。
 首都への一極集中はまだ揺らぎそうにない。


■8 国会議事堂


チェンマイの資本家や政治と経済に関する日本語文献にはつぎのものがあります。
遠藤 元 1996. 「タイにおける地方実業家の事業展開」『アジア経済』37(2)。
----. 2001a. 「タイ地方都市における政治グループの支配メカニズム」『アジア経済』42(5).
----. 2001b. 「タイにおける地方小売財閥の形成と展開:タントラーパン・グループの事例」『経営史学』 36(1).
ヴイエンラット・ネーティポー.2000. 「タイの都市政治における政治的影響力(1):チェンマイを事例に」『法学論叢』148(1).