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第5回(通算第30回)
「民主政治時代の中央・地方関係」
玉田芳史:地域進化論講座

Contents

1.タイの中央・地方関係

2.併呑された地方権力

3.中央集権的な行政

4.学歴エリート:ニムマーンヘーミン一族

5.地元密着型資本:タントラーノン一族

6.官僚と政治家を使うスパー一族

7.首相を出したチンナワット一族

8.遠い地方の時代

官僚と政治家を使うスパー一族


 しかし地方資本が全敗というわけでもない。建設業者がその1つである。1950年代にアメリカが建設した「友好道路」を皮切りに、タイはめざましい道路建設の時代を迎えることになる。工事を担当するのは、大ざっぱにいうと道路局→外国企業→首都企業→地方企業と変化してきた。道路は政官界でもっとも人気のある事業であり、予算が確実に増えてきた。首都の政官界幹部と直結した大企業の各地における下請けから飛躍する企業があった。
 北部地方でそうした建設会社を代表するのがスパー一族のチェンマイ建設社である。創業者のカネーンはラムパーン県トゥーン郡の出身、父親を早く亡くし、チェンマイに出て一代で会社を築き上げた。カネーンは官僚とのコネに加えて、政治も利用してきた。娘は遠方のブリーラム県選出の国会議員ネーウィンに嫁いでいる。夫婦そろって国会議員であり、ネーウィンはたびたび入閣してきた有力政治家である。予算規模の大きな公共事業はすべて中央官庁のものであるため、国政とのパイプが重要なのである。議会政治の定着とともに、国会議員のパイプは80年代から太くなった。


■ 6-1 チェンマイ建設社


■ 6-2 同社敷地内の庭 なぜか船が飾られている