第230回 「メルマガ写真館」

第230回「メルマガ写真館」
「突然の神学論争に巻き込まれて」
野川真瑚 (アフリカ地域研究専攻)
調査中、ソマリ人に論争をふっかけられることがたまにあります。たとえば、ある昼下がり。ナイロビ市イーストリー地区での各書店での聞き取り調査に一段落をつけ、軒先のカフェでお茶を飲んでいたところ、たまたま同席していたソマリ人に、矢継ぎ早に英語で次のような質問を投げかけられました。
「日本から来たのか。日本の宗教は何だ?」(仏教ですと返答)「仏教の神は何というんだ?」
この時点で私はかなり返答に詰まり、「仏教には神はいない。あらゆるところに神が宿るというのが仏教の思想だ」と答えました。今思えば、日本のカミ概念と仏教思想を混ぜ合わせたような、どうにも歯がゆい返答だったのですが、相手はそれを聞くと、上体を低くかがめ、両腕を広げてこう言ったのです。
「それはおかしな話ではないか。神がいないのなら、宇宙はどうやって創造されたんだ。例えば私がこうやってコップを動かせば、それは私が加えた行動ということになるだろう。しかし、どこかで宇宙を創造するための最初の行動がなければならないんだ。その最初の行動を起こしたのは、仏教では誰なんだ?」
私はまったく返答に窮してしまいました。とりあえず、「仏教では宇宙は無から始まったので、誰も最初の行動を起こしてはいない」と答えてみたものの、相手が納得したようには見えませんでした。その場は結局それで終わりましたが、今でも急にふっかけられた論争に応えるために、想定問答を考えることがあります。

(写真1):イーストリーの道脇にあるカフェ。お茶と一緒にお香を炊いてくれる。