1. HOME
  2. ブログ
  3. 地域研究情報マガジン
  4. アジア・アフリカ地域研究情報マガジン 第271号

Articles

メルマガ記事

地域研究情報マガジン

アジア・アフリカ地域研究情報マガジン 第271号

■■■ January 2026 第271号 ■■■■■■■■■■■■
アジア・アフリカ地域研究情報マガジン
ASAFAS INFOrmation Magazine
https://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/
■■■■■■■■■■■■【発行部数 1,141】■■■■■■

__今月号の目次 Contents_______________
□フィールド便り……………… キタレの悪夢
□ メルマガ写真館……………… 命の尊さと儚さを考える
□ 最近の出来事………………… Facebook・Twitter情報
□ 編集子より
____________________________

========================================================== 
■フィールド便り Letter from the Field
==========================================================

「キタレの悪夢」
横田 由真 (アフリカ地域研究専攻)  

「あの”廃墟”を、本当に見たいのか?」と、学芸員が渋い顔で問いました。
「…”廃墟”とは、この博物館の屋外展示場のことですか?」
 私が聞き返すと、意味ありげに苦笑した学芸員は頷き、ついて来いと促しました。荒廃は段々と見てとれました。カメ飼育場はコンクリ塀が倒壊しており、自然散策路の橋板は抜け落ちて通行不能で、”元”展示室は段ボール・ペットボトルごみ・廃材が散乱していて足の踏み場もなく、ブランコの座板は取れて鎖の先にだらりと垂れていました。私達は寂れたヘビ飼育場で足を止めました。
「空のケージもありますね。」
「ああ。1年半前からずっと、エサを買うための金すら無いんだよ。飢えて弱った個体から死んでいく。」
 2024年6月、キタレ博物館の運営は国から県に移管されました。以前は国から毎月20万円を支給されていましたが、県への移管後は運営費が途絶えたと学芸員は証言しました。職員は35名から10名となり、経験不足な非専門家が要職に任命されるなど、県によって早計な再編がなされたのを受けて、現場の軋轢は尽きることがないようでした。
 学芸員は、伝統的家屋の実寸大模型を指さして「ほら、”廃墟”だろ?」と揶揄しました。保存状態は劣悪。屋根の藁がみすぼらしく禿げて垂木が剥き出しになっており、壁も崩れ落ちて室内が露呈し、天井は蜘蛛の巣でびっしり覆い尽くされていました。見るも無残に全壊した食糧庫を見た瞬間、民族文化の尊厳が踏みにじられていると私は感じ、これを見た多くの人は心を痛めただろうと思いました。実際に苦情が頻繁に寄せられていると学芸員は語り、続けて吐露しました。
「県の役人はナイロビ大学を出た人類学者だった。人間文化の尊さを理解している人がリーダーになるのだと僕たちは喜んだけれど、その期待は裏切られた。本当に失望した。」
 学芸員は苦い顔でスマホをスクロールして、1年半前の写真を私に見せました。整然と屹立した家屋の写真は、適切なメンテナンスが過去になされたことを雄弁に物語っています。資金・人員の削減により、博物館の適切な環境が失われたのは明白でした。
「これを”廃墟”ならしめた役人の地元は、ここなんだ。自分の出身地と出身民族についての博物館展示が、この有様なのを知ったうえで、あの人類学者は必要経費さえ寄越さずに放置しているんだよ。ねえ、君はどう思う?」
 私は閉口することしかできませんでした。しかし、他の博物館も県に移管されることが予期される今、キタレの悪夢を再発させないための方策を勘案せねばと気持ちばかりがもどかしく急くのです。

写真1:キタレ博物館のカメ飼育場。コンクリ塀が倒壊したため、カメたちは隣にある別の飼育場に移され、現在この飼育場には何もいない。
写真2:キタレ博物館の”元”展示場。屋根が取り払われ、その後工事が中断したまま。
写真3:博物館の敷地内に放置された廃材。
写真4:キタレ博物館に展示された伝統的家屋のなかの食糧庫。壊れ果てている。

(上記フィールド便りに関する写真は次のFacebookでご覧ください。)
https://www.facebook.com/asian.african.area.studies/posts/pfbid08Gp
TaesQJBsrdBT7NX6LiUKtQGxS4SUn1wL3hjhTycC7uPZtYqBK5efhu8KzaVeil

========================================================== 
■ メルマガ写真館 Photo Gallery
========================================================== 

「命の尊さと儚さを考える」
石川 航大(アフリカ地域研究専攻)

 ふと、私に擦り寄ってきた生後1ヶ月の山羊の赤ちゃん。ふらふらと、おぼつかない足取りで私の真横にチェックイン。そのまま身体を預けてすっかり安心しきっている様子。一定のリズムを刻んで伝わってくる心臓の鼓動や体の温もりが、仔山羊と私の間に不思議な一体感を生み出します。
 この1週間後、仔山羊は栄養失調で亡くなりました。すぐにその小さなお腹にナイフが入り、肉となった仔山羊は人間や犬に振る舞われていきます。その呆気なさに感情が入る隙もないまま、私はじっとその光景を見つめることしかできませんでした。命は尊いから儚いのか、儚いから尊いのか。逆らうことのできない自然の摂理をそのまま受け入れる、そんなリアルな実践がここにはあります。

写真1:仔山羊と私(2025年10月12日、ボツワナで執筆者撮影)

(上記メルマガ写真館に関する写真は次のFacebookでご覧ください。)
https://www.facebook.com/asian.african.area.studies/posts/pfbid02yj
Yod7M9GzBj69AViSDHwQ7ghdYzj7xzaLMPPBCwL4gW4hGpcewJEycBwTozkapbl

(過去のメルマガ写真館は、次のURLからご覧いただけます。)
https://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/photoessay/

==========================================================
■ 最近の出来事 Recent Topics
==========================================================

────────────────
□ Facebook・Twitter情報
────────────────

FacebookとTwitterから最新情報を発信しています。
是非ご登録ください!

○ 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)
https://www.facebook.com/asian.african.area.studies/

○ 東南アジア地域研究専攻Facebook
https://www.facebook.com/AsafasAsia/

○ 東南アジア地域研究専攻生態環境論講座Facebook
https://www.facebook.com/asaseaeco/

○ アフリカ地域研究専攻 Facebook
https://www.facebook.com/ASAFASAfrica

○ グローバル地域研究専攻Facebook
https://www.facebook.com/京大アジアアフリカ地域研究研究科グローバル地域研究専攻-545053518980616/

○ 京都大学アフリカ地域研究資料センター
https://www.facebook.com/CAASKyotoUniv/

http://twilog.org/Africa_Kyoto_U

==========================================================
■ 編集子より From the Editor
==========================================================

 調査地にいると、日本では感じたことがないやるせなさ、もどかしさを感じる機会が多々あります。調査地と日本の環境は大きく違いますが、それでも日本では単にそれが私たちの目からうまく隠されているだけかもしれません。目の前に立ち現れる権力の壁、突然消えていく命に戸惑いながらも調査地に通い続けるのは、それを上回るたしかな喜びがあるからだ、と私は感じています。(M.S.)                 

==========================================================
□ メールマガジンに対するご意見・ご感想お待ちしております。
  http://form.mag2.com/gianoubima
==========================================================

◆ このメールマガジンは、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)広報委員会、ASAFASキャリア・ディベロップメント室、ASAFAS臨地教育・国際連携支援室より発行しています。

◆ ご意見・ご感想を以下フォームよりお気軽にお寄せください。
掲載希望の記事や研究会の案内なども受け付けています。
宛先:http://form.mag2.com/gianoubima

◆ バックナンバーは、こちらのページから読むことができます。
https://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/melmaga/

◆ このメールは「まぐまぐ!」を利用して配信しています。
新規登録・解約は下記ページにてお願いします。

アジア・アフリカ地域研究情報マガジン

==========================================================

■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

編集/発行:
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)広報委員会
ASAFAS キャリア・ディベロップメント室
ASAFAS 次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
    臨地教育・国際連携支援室
協力:
京都大学 アフリカ地域研究資料センター
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■

関連記事